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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

貨物列車が通せんぼをする踏切…秩父鉄道 [No.H291]

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石灰石を積む貨車を連ねて親鼻駅に進入してきた貨物列車。踏切には「踏切通行の皆様へ」という立て札が建っている。
秩父鉄道は、埼玉県の羽生駅から熊谷駅を経て、長瀞・秩父といった観光地を通り三峰口駅に至る71. 7kmの路線を旅客運行しています。
「旅客運行」と記したのは、熊谷駅と寄居駅の中間付近にある武川(たけかわ)駅から分岐して、JR東北本線の熊谷貨物ターミナル駅までの貨物線7. 6kmも運行しているためです。いずれの路線も単線です。
貨物列車は、秩父駅の少し三峰口駅側にある影森駅近くの秩父太平洋セメント三輪鉱業所から、武甲山で採れた石灰石を運び出しています。社名から判るように、秩父セメントとして大正時代に発足した会社が母体となっています。
つまり、秩父の象徴ともいえる武甲山でとれる石灰石を運ぶためにできた鉄道です。
その石灰石輸送貨物列車は今も毎日運行されています。単線ですから、電車と交換(すれ違い)する際には、交換可能駅で停まって、対抗してくる電車を待ちます。
ところが、貨物列車は旅客用の電車と比べて編成が長いため、ホームに納まりません。上の写真は貨物列車が親鼻駅に進入してきたところですが、停車位置はホームを超え、さらにこの踏切を越えた先となります。


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交換相手の電車がやってくるまで、踏切を通せんぼして待つ貨物列車。遮断器は上がってしまった。
この踏切は、一見、駅構内を対向ホームに行くための構内踏切に見えますが、公道の踏切道も兼務しています。つまり、駅利用者でなくても、誰でも自由に行き来ができる踏切です。
そのため、踏切には「踏切通行者の皆様へ」と大書した立て札が建っていて、「貨物列車が踏切をふさぐ時間帯」が列記されています。これをみると、平日で8本、土休日には9本の貨物列車が、このように踏切を通せんぼすることがわかります。
対向列車を待避するため貨物列車が停車すると、踏切警報機はいったん鳴り止み、遮断機も上がります。でも、対抗電車がやってくるので、踏切装置が作動していなくても、踏切内に入ったら危険です。そのようなことをしないようにとのお願いも記してあります。
踏切を貨車が通せんぼする時間は、列車によってバラバラで、最短は3分間ですが、最長では34分間という列車があることも、この立て札をみると判ります。
かつて、全国的にこのような踏切が見られたのですが、鉄道貨物が拠点間を結ぶコンテナ列車を主体とするようになって激減し、今ではほとんど見られません。筆者が知る限りでは、この親鼻駅の構内踏切と、三重県の三岐鉄道東藤原駅の北側にある踏切くらいです。どちらも石灰石を輸送する鉄道という点が共通しています。


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対抗電車が貨車の向こう側を通過している。警報機の「ちゅうい」の上は、蒸気機関車のイラストになっている。
やがて、警報機が鳴り始め、続いて遮断器が閉じます。対抗電車がやってきたのです。対抗電車は、駅ホームで乗客の乗降を済ませると、すぐに発車していきます。すると、間髪を入れずに貨物列車も走りはじめました。待避時間の終了です。
このとき、警報機の表示をみて、おや? と思いました。「ちゅうい」と平仮名で書かれたすぐうえに、なにやら見慣れないマークのようなものがあるのです。
右の写真では、その部分を拡大して同じ画面内に表示していますが、ご覧の通りマークのようなものは、蒸気機関車を正面からみたときのイラストです。秩父鉄道は「SLパレオエクスプレス」という蒸気機関車C58 363がけん引する列車を、毎年春から秋まで、週末を中心に運行しています。
今年で運行開始から30年になる、人気の列車です。そのことから、秩父鉄道沿線の踏切警報機には、このようなイラストをつけたようです。遊び心があっていいですよね。

親鼻駅は、秩父で人気の長瀞(ながとろ)ラインくだりAコース乗船口に近いところにあります。長瀞ラインくだりの受付は長瀞駅下車ですが、その三峰口側は上長瀞駅・親鼻駅と続きます。上長瀞駅~親鼻駅間1. 6kmの中間付近で荒川橋梁を渡りますが、その橋梁近くが乗船場となっているのです。
秩父鉄道に行って時間があれば、こんなところも見てきてくださいね。


掲載日:2018年06月29日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。