「仕事のストレス発散に注目した勝沼の観光資源の訴求方法の検討」
―観光客を対象としたサーベイ調査にもとづく提言―
- ①「ワイナリーが密集したぶどう畑の景色」は、「勝沼ブランド」を構成する最も重要なイメージ
- ② 訴求の視点を変えることで、既存資源の新たな可能性の発見につながる
1.調査目的
日本旅行総研では、このたび、山梨学院大学現代ビジネス学部日高優一郎ゼミと共同で、「仕事のストレス発散に注目した勝沼の観光資源の訴求方法の検討」のためのサーベイ調査を実施しました。仕事のストレスを感じることは、旅に行きたいという欲求を生起させる重要なモメントであると言われています。本調査は、山梨県甲州市勝沼を中心としたエリアの観光資源が、ストレスを解消したいと思う気持ちとどのように関連するのか、どのような訴求を行うことが彼らのストレスを解消したいという気持ちとうまくリンクさせることに繋がるのかという点について、質問票から得られた回答を統計的に分析して考察するものです。
2.分析結果
本調査では、①日頃の仕事のストレスはどのように分類できるのか(テーマ1)、②彼らのストレスは、ストレスの解消方法や旅に求めるものとどのように関連するのか(テーマ2)、③彼らが抱えるストレスごとに、魅力的に見える甲州市勝沼観光資源はどのように変わるのか、どのような訴求方法が観光資源の可能性を最大化するのか(テーマ3)の3点について分析した。
テーマ1アクティブシニア日頃の仕事のストレスを3つのタイプに分類
ここでは、質問票のQ6.Q7―「日頃の仕事のストレス」に関する14項目の質問を用いて因子分析を行い、働く人たちの日頃のストレスがどのように分類できるのか、分析した。分析の結果、3つのタイプのストレスを同定した(詳細はリンク先参照)。
(Ⅰ)「肉体疲労型」…「寝ても疲れがとれない」「気づいたら寝ている」「頭の中をリセットしたい」
(Ⅱ)「スケジュール切迫型」…「プライベートの時間がない」「スケジュールがいっぱい」など
(Ⅲ)「生活リズム悪化型」…「長時間のデスクワーク」「食事をコンビニ等ですませてしまう」など
テーマ2ストレスの解消方法や旅に求めるものは、仕事で抱えているストレスごとに異なる
次に、彼らの「日常の仕事のストレス」ごとに彼らの「ストレス解消方法」、「旅に求めるもの」がどのように異なるのか、分析を行った。具体的には、テーマ1の因子分析の結果得られた「日頃の仕事のストレス」グループの因子得点と、Q2―「ストレスの解消方法」に関する8項目の質問を用いた相関分析、及びQ5―「旅に求めるもの」に関する15項目を用いた相関分析を行った。その結果をまとめると下図のようになる。図中の○は強い正の関連性が示された項目を示している。
テーマ3-1訴求の視点を変えることで、既存資源の新たな可能性の発見につながる!
ここでは、日頃の仕事のストレスごとに魅力的にみえる勝沼の観光資源はどのように異なるのか、明らかにするための分析を行った。具体的には、テーマ1の因子分析の結果得られた「日頃の仕事のストレス」グループの因子得点とQ1―「勝沼の魅力に感じる観光資源」に関する15項目の質問を用いた相関分析を行った。その結果は下図のとおりである。また、これまでの分析結果から示される提言は、以下のとおりである。
■「肉体疲労型」にむけた観光資源の訴求:「穏やかな・ゆったりとした空間・雰囲気」
彼らは、贅沢な気分でリラックスしながら現実逃避できる空間や雰囲気を大切にする。勝沼の場合、特産であるワインを飲み、ゆっくりと話しながら地元の食材を使った料理を食べることができることを訴求の中心的視点に据えることが重要だということがわかる。つまり、穏やかでゆったりとした空間・雰囲気を基軸とした観光資源の訴求をすることで、彼らが抱えているストレスと勝沼の観光資源をつなげることができ、より魅力的なものにみせることができる。例えば、『原茂ワイン Casa da Noma』、『ビストロ・ミル・プランタン』、『ワイナリーレストランZelkova』などは、彼らへの訴求効果を高める視点を提供するだろう。
■「スケジュール切迫型」にむけた観光資源の訴求:「人とのふれあい・体感による非日常の演出」
彼らは、その土地ならではのものを体験したり地元の人と交流しながら地域の資源を体感することでリラックスできると旅への満足度を高める消費者だということがわかる。今回の結果からは、勝沼の観光資源との直接的な関連性は明らかにできなかったが、人とのふれあいや体感による非日常の演出が、彼らに対して勝沼の観光資源をより魅力的なものにみせる可能性がある。例えば、彼らに勝沼で非日常を体感したいと思ってもらう際に、ワイナリーの見学や試飲やワイナリーやブドウ農家が行う各種ツアーは重要な役割を果たすのではないかと考える。
■「生活リズム悪化型」にむけた観光資源の訴求:「勝沼の風土を楽しむ『人の営み』」
彼らは、本来であればよりアクティブでいたい気持ちがありながら、なかなかできずにストレスを抱えている人たちである。彼らは、ブドウ畑の景色の中を散策しながらワイナリーを巡り、ワインやぶどうの作り手の考えを聞き、ワイン好きとの交流を楽しむことでストレス解消につながると知覚する傾向が読み取れる。つまり、資源そのものというよりも、資源を含む風土を楽しむ『人の営み』を訴求の視点の中心に据えることで、勝沼の風土に触れるという彼らの欲求に近づくことができ、彼らのストレスに対する働きかけを強化できる。例えば、『ワインツーリズム』の取り組みはまさにワイン産地を知るための事業であるほか、アサンブラージュやTeam Kisvinにみられるような作り手の活動を現地に赴き知ることは、彼らの勝沼に対するロイヤルティを高めるように思われる。
テーマ3-2「ワイナリーが密集したぶどう畑の景色」は、「勝沼ブランド」を構成する最も重要なイメージ
上記の結果から、勝沼にはさまざまな観光資源があり、その編集方法や訴求の視点を検討することで新たな可能性を見出せる。その一方で、今回の結果は、どのストレスを抱えているグループであれ、概ね「ワイナリーが密集」した「ぶどう畑の景色」に対しては魅力を感じる傾向があることを示している。つまり、「ワイナリーが密集したぶどう畑の景色」は、消費者の中の「勝沼ブランド」のイメージを構成する最も重要な要素で、外すことのできない要素であることがわかる。
- ○方法:自記式個別面接調査
- ○対象:甲州市勝沼を訪れていた20~40代の男女116人
- ○時期:2013年11月
- ○資料1:「仕事のストレス発散に注目した勝沼の観光資源の訴求方法の検討」観光客を対象としたサーベイ調査にもとづく提言(PDF:17.2MB)