「アクティブシニアのライフスタイルと観光行動」
―甲州市勝沼の地域観光資源の魅力の再発見にむけたサーベイ調査―

1.調査目的

日本旅行総研では、このたび、山梨学院大学現代ビジネス学部日高優一郎ゼミと共同で、「アクティブシニアのライフスタイルと観光行動―甲州市勝沼の地域観光資源の魅力の再検討にむけたサーベイ調査―」を実施しました。多種多様なライフスタイルを持つとされ、市場の牽引役としてアクティブシニアが注目を集めています。その一方で、彼らがどのような観光行動特性を持つのかという点については必ずしも明らかにされていません。そこで本調査は、彼らのライフスタイルごとに観光行動はどのように異なるのか、多様な観光資源を潜在させている地域のひとつである甲州市勝沼を取り上げ、地域の観光資源が彼らのライフスタイルに注目することでどのような可能性に開かれうるのか、質問票(詳細はリンク先参照)から得られた回答を統計的に分析し、アクティブシニアの観光行動特性や地域観光活性化の可能性について考察するものです。

2.分析結果

本調査では、①アクティブシニアのライフスタイルはどのように分類できるのか(テーマ1)、②彼らのライフスタイルは、旅行に期待することとどのように関連するのか(テーマ2)、③彼らのライフスタイルごとに、魅力的に見える甲州市勝沼観光資源はどのように変わるのか、どのような訴求方法が地域の観光資源の可能性を最大化するのか(テーマ3)の3点について分析した。

テーマ1アクティブシニアのライフスタイルは4つのタイプ!

ここでは、質問票のQ4―「興味・関心」に関する16項目の質問を用いて因子分析を行い、彼らのライフスタイルがどのように分類できるのか、分析した。分析の結果、アクティブシニアのライフスタイルを4つのタイプに分類できた(詳細はリンク先参照)。
(Ⅰ)「グルメ型」…「料理」・「食事」に興味、関心。
(Ⅱ)「おしゃれ型」…「ショッピング」、「ファッション」、「ドライブ」
(Ⅲ)「リフレッシュ型」…「温泉」、「健康」(アクティブシニアではなく既存のシニアと解釈)
(Ⅳ)「旅行・写真型」…「写真」、「旅行」、「インターネット」、「ワイン」。
(Ⅴ)「勉強型」…「歴史」、「読書」、「芸術」。
あわせて、Q3―「性格」に関する11項目の質問を用いて因子分析を行い、彼らの性格を分類分けしたのち、その結果得られた因子得点と「興味・関心」ごとの因子得点を用いた相関分析を行った。各ライフスタイルを持つアクティブシニアがどのような性格の持ち主なのか、明らかにした。その結果が、以下の表である。図中の○は強い関連性が確認された箇所を示している。

テーマ2ライフスタイルは、彼らの旅への期待感や満足度を高めるポイントを教えてくれる
重要なファクター

次に、彼らの「興味・関心」ごとに彼らが旅行にどのようなことを期待する傾向にあるのか、分析を行った。具体的には、テーマ1の因子分析の結果得られた「興味・関心」グループの因子得点とQ2―「旅行に期待すること」に関する10項目の質問を用いた相関分析を行った。その結果をまとめると下図のようになる。図中の○は強い関連性が示された項目を示している。

テーマ3ライフスタイルにピントを合わせて既存の観光資源を編集すると、可能性は広がる!

ここでは、アクティブシニアのライフスタイルごとに魅力的にみえる勝沼の観光資源はどのように異なるのか、明らかにするための分析を行った。具体的には、テーマ1の因子分析の結果得られた「興味・関心」グループの因子得点とQ6―「勝沼の魅力に感じる観光資源」に関する12項目の質問を用いた相関分析を行った。その結果は下図のとおりである。また、これまでの分析結果から示される提言は、以下のとおりである。

■「グルメ型」アクティブシニアの観光行動と勝沼観光の可能性:「食」×「勝沼」

彼らは、旅先の食べ物や飲み物を起点に旅行先を決め、おいしい食事に巡り合えるかどうかが彼らの旅への満足を大きく規定していることが伺える。したがって、とにかく食メインでむしろ食しか興味がないグルメ型には、勝沼近郊の食材を使った料理とそれを引き立てるワインが提供できる観光資源を提案することが重要だろう。
具体的な場所の一例として、地元食材を活かしたヤマナシ・フレンチと自家製ワインが楽しめる「ゼルコバ」、勝沼醸造「風」、「ぶどうの丘展望レストラン」などが挙げられる。

■「おしゃれ型」アクティブシニアの観光行動と勝沼観光の可能性
 「雰囲気」×「勝沼」

彼らは、普段ショッピングやファッションに興味・関心を持つ消費者で、旅では「旅先の雰囲気」を特に重視することが伺える。したがって、勝沼の町並みを五感で愉しめるよう、ぶどう畑をはじめとした景観とともに観光資源を提案したり、地元の人とのふれあいを強調することが、彼らの旅行に行きたい気持ちを高め、旅の満足度を高める。
具体的な場所としては、勝沼ガラス工房「グラス館」、「大日影トンネル」、勝沼の案内も行っているまち案内&カフェ「つぐら舎」などが挙げられるが、訴求に際してはこれらの資源を用いながら、勝沼全体の雰囲気を醸し出すことが重要なポイントになると考えられる。

■「旅行・写真型」アクティブシニアの観光行動と勝沼観光の可能性
 「イベント」×「勝沼」

彼らは、「おしゃべり」で「町歩き」や「旅行」が好きなことから、そのそも旅すること自体が好きで、多くの興味を示す傾向にあるため、何か所も自由に精力的にまわって非日常体験を得ることで旅への満足感を高める消費者であることが伺える。彼らの関心は多方面にわたることからさまざまな訴求のポイントが考えられるが、ワインに関する項目にも多くの関心を示していることから、今回はワインと人を組み合わせて楽しめる観光資源に注目し、イベントでそこでしか楽しむことができない非日常体験を感じる場所を訴求することを提案する。
具体的には、勝沼の自然や風土を歩いて楽しむ「勝沼フットパス」や「ワイナリーめぐり」、地域密着型の朝市である「勝沼朝市」などが、彼らへの訴求の効果を高めるのではないかと考える。

■「勉強型」アクティブシニアの観光行動と勝沼観光の可能性
 「イベント」×「勝沼」

彼らは歴史や読書に関心を持ち、好奇心旺盛という性格の持ち主である。今回の調査では旅行に期待することは明らかにできなかった。旅行・写真型とは対照的に、潜在的な消費者だと整理できるだろう。一方で、勝沼の観光資源では歴史関係や町歩きを魅力を感じていることから、これらの観光資源が彼らの「旅に出たい」という気持ちを高めることが考えられる。勉強型アクティブシニアは、自分の好きなことをとことん追求して歴史を知ることに強い嗜好性を示す消費者で、彼らにとって歴史ある町並みとは「知的好奇心を刺激すること」であり、知的好奇心が彼らの旅行へのニーズを生みだす起点となるだろう。
 具体的な場所の一例としては、ぶどうやワインの歴史をひろく知ることができる「勝沼上町ワイン博物館」、国宝の「大善寺」、ぶどうの丘で行われる「コンサート」などが挙げられる。

3.まとめ

アクティブシニアは、これまで指摘されてきたように、趣味・関心が多様なことから、彼らのライフスタイルを特定し、ライフスタイルに合わせた観光プランの提示が重要になると考えられる。例えば、今回の調査では、「甲州ワイン」はどのアクティブシニアも関心を示す観光資源であることがわかった。しかし、分析結果を統合的に検討すれば、同じ「甲州ワイン」でも、グルメ型では「味」に注目した訴求が、「おしゃれ型」ではワイナリーも含めた「勝沼全体の雰囲気」に注目した訴求が、「勉強型」では「ワインの歴史や知識」に注目した訴求が、それぞれ重要になることがわかる。つまり、それぞれのタイプごとに心に響く見せ方は異なり、既存の観光資源の訴求方法や見せ方をターゲットごとに検討することは、これまで潜在していた既存の観光資源の可能性を新たに見出し、観光活性化に繋がるということを今回の調査結果は示唆しているように思われる。

(日本旅行総研産学共同研究チーム)

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