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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
京浜急行逗子線にある3線軌条渡り [No.H009]
レールとレールの幅をゲージ(軌間)といいますが、この軌間が一種類でないことはご存知のことと思います。JR在来線は1067mmで狭軌、新幹線は1435mmで標準軌と呼びます。これは、新幹線の1435mmが世界的に普及していることからつけられた名称です。それぞれの軌間は独立していて、他の軌間とは行き来ができません。しかし、行き来できると便利なことも多いため、歴史的にさまざまな工夫がされてきました。例えば、標準軌の平たい貨車に狭軌の貨車を積んで運ぶようなことは欧州でよく見られました。また、国境で台車を履き替えることで異なる軌間に相互直通するとか、軌間可変台車を開発したスペインのタルゴ社もあります。いま、JRグループでもこのタルゴ社と提携して、新幹線から在来線に直接乗り入れる軌間可変台車の開発が進んでいます。
そのようななかで、最も簡易で普及しているのが、3線軌条です。一方のレールを共用し、もう一方のレールを軌間にあわせて別々に設置することで、同じ線路敷きを異なった軌間の車両が走れるようにしたものです。国内では、いまのところ次の3線軌条区間があります。
・JR東日本 奥羽本線 神宮寺〜峰吉川
・京浜急行電鉄 京急逗子線 金沢八景〜神武寺
・箱根登山鉄道 入生田〜箱根湯本
このほか、青函トンネルもいま北海道新幹線を走らせるため、既存の在来線に1本レールを追加して3線軌条化する工事を進めています。
さて、これら3線軌条区間はそれぞれユニークなところですが、そのなかで、京浜急行(京急)の六浦駅前後で見られる3線軌条渡りという珍しい部分を今回はご紹介しましょう。
右上の写真をご覧いただくと、右側の線路が3線軌条になっていることが判ります。ところが、右の方は手前のレールが共用レールなのに、左奥に行くと共用レールは奥のレールになっています。その移り変わるところには、なんとポイント(分岐器)があることも判ります。通常、線路はできるだけ単純化して故障しやすいポイントを減らします。これにより、乗り心地が悪くなることも避けられますから、車両に対しても優しくなります。それなのに、ここでは直線であるにもかかわらず、わざわざポイントを挿入することで共用レールを変えています。何故でしょう…?
実は、この先に六浦駅があり、同駅のホームは共用レールの反対側に位置しているのです。つまり、共用レールをそのままにして進むと車両がホームに接触してしまう可能性があるわけです。かといって、ホームを後退させると電車とホームの隙間が増えて、乗降客がその間に落ちる危険性が高まりますので、これは避けなければならないわけです。では、最初から共用レールを反対側にしておけば良いのではと考えますよね。ところが、前後の金沢八景駅と神武寺駅のホームは六浦駅と反対側にあるのです。ですから、六浦駅部分だけ共用レールを逆にする方が効率的なわけです。左下の写真は六浦駅の前後を見通したものですが、同駅ホーム部分だけ共用レールを逆さにしていることがわかりますよね。
ちなみに、この京急逗子線の3線は、通常標準軌側しか使っていません。つまり、ポイントが関係ない側ですね。これは、京急の電車が標準軌だからです。
では、狭軌側は何に利用するのでしょう。それは、金沢文庫駅のすぐ北西にある総合車両製作所が関係しています。この会社は、以前、東急車輌製造という東急電鉄のグループ会社でした。それが、今年4月にJR東日本の完全子会社となって、総合車両製作所という社名に変わったのです。製作するのは、鉄道車両です。つまり、ここで製造された新車を送り出すために使われるのが、京急逗子線の3線軌条の狭軌側というわけです。
もちろん、京急の新製車はそのまま自社線内を走るので、この3線軌条は関係ありません。3線軌条が関係するのは、JR東日本や東急など、狭軌線用の車両です。これらは、通常、夜間に工場を出て、この3線区間を神武寺まで進みます。ここで、JR横須賀線逗子駅につながる連絡線に入っていくわけです。ですから、この線路が活用されているところはなかなか見られません。この点は、ちょっと残念ですね。
掲載日:2012年10月19日
そのようななかで、最も簡易で普及しているのが、3線軌条です。一方のレールを共用し、もう一方のレールを軌間にあわせて別々に設置することで、同じ線路敷きを異なった軌間の車両が走れるようにしたものです。国内では、いまのところ次の3線軌条区間があります。
・JR東日本 奥羽本線 神宮寺〜峰吉川
・京浜急行電鉄 京急逗子線 金沢八景〜神武寺
・箱根登山鉄道 入生田〜箱根湯本
このほか、青函トンネルもいま北海道新幹線を走らせるため、既存の在来線に1本レールを追加して3線軌条化する工事を進めています。
さて、これら3線軌条区間はそれぞれユニークなところですが、そのなかで、京浜急行(京急)の六浦駅前後で見られる3線軌条渡りという珍しい部分を今回はご紹介しましょう。
右上の写真をご覧いただくと、右側の線路が3線軌条になっていることが判ります。ところが、右の方は手前のレールが共用レールなのに、左奥に行くと共用レールは奥のレールになっています。その移り変わるところには、なんとポイント(分岐器)があることも判ります。通常、線路はできるだけ単純化して故障しやすいポイントを減らします。これにより、乗り心地が悪くなることも避けられますから、車両に対しても優しくなります。それなのに、ここでは直線であるにもかかわらず、わざわざポイントを挿入することで共用レールを変えています。何故でしょう…?
実は、この先に六浦駅があり、同駅のホームは共用レールの反対側に位置しているのです。つまり、共用レールをそのままにして進むと車両がホームに接触してしまう可能性があるわけです。かといって、ホームを後退させると電車とホームの隙間が増えて、乗降客がその間に落ちる危険性が高まりますので、これは避けなければならないわけです。では、最初から共用レールを反対側にしておけば良いのではと考えますよね。ところが、前後の金沢八景駅と神武寺駅のホームは六浦駅と反対側にあるのです。ですから、六浦駅部分だけ共用レールを逆にする方が効率的なわけです。左下の写真は六浦駅の前後を見通したものですが、同駅ホーム部分だけ共用レールを逆さにしていることがわかりますよね。
ちなみに、この京急逗子線の3線は、通常標準軌側しか使っていません。つまり、ポイントが関係ない側ですね。これは、京急の電車が標準軌だからです。
では、狭軌側は何に利用するのでしょう。それは、金沢文庫駅のすぐ北西にある総合車両製作所が関係しています。この会社は、以前、東急車輌製造という東急電鉄のグループ会社でした。それが、今年4月にJR東日本の完全子会社となって、総合車両製作所という社名に変わったのです。製作するのは、鉄道車両です。つまり、ここで製造された新車を送り出すために使われるのが、京急逗子線の3線軌条の狭軌側というわけです。
もちろん、京急の新製車はそのまま自社線内を走るので、この3線軌条は関係ありません。3線軌条が関係するのは、JR東日本や東急など、狭軌線用の車両です。これらは、通常、夜間に工場を出て、この3線区間を神武寺まで進みます。ここで、JR横須賀線逗子駅につながる連絡線に入っていくわけです。ですから、この線路が活用されているところはなかなか見られません。この点は、ちょっと残念ですね。
掲載日:2012年10月19日
●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
そこには、分岐器に使われる転轍機が2組見られる
その前後で、共用レールは逆さになっている。