日本旅行 トップ > JR・新幹線+宿泊 > 鉄道の旅 > 汽車旅ひろば > ひろやすの汽車旅コラム 「鉄道の父「井上勝」像がある、山陰本線萩駅」

[ ここから本文です ]

汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

鉄道の父「井上勝」像がある、山陰本線萩駅 [No.H289]

イメージ
クリックして拡大
井上勝像の後方には、登録有形文化財となっている大正モダンな萩駅舎が建っている。
山口県の萩といえば、明治維新で活躍した人々を輩出した地として知られていますよね。明治は、鉄道が日本に敷かれ、幹線網が整備されていった時代でもありますが、その鉄道敷設に大きく貢献し「鉄道の父」と呼ばれた井上勝もまた、この萩出身者でした。
江戸末期に伊藤博文らと密航して渡欧し、ロンドン大学で鉱山・土木工学を学ぶとともに、現地で鉄道の発達した街を実見してきたことが、その原動力になったことでしょう。
その故郷に萩駅ができたのは大正14(1925)年4月のことで、井上勝がロンドンで客死した明治43(1910)年から15年も後のことでした。しかし、同氏による鉄道網発展が生んだ駅だけに、平成28(2016)年の鉄道の日、10月14日に萩駅前に井上勝の銅像「井上勝 志気像」が建ったのでした。
銅像からは、血気盛んな様子を感じますが、イギリス留学中に撮影された写真をモチーフにしたものだそうです。「萩まちじゅう博物館」活動の一環で、高杉晋作立志像、久坂玄瑞進撃像に続く三作目の銅像だということです。


イメージ
クリックして拡大
萩駅舎内の旧待合室は「萩市自然と歴史の展示館」となっていて、毎日午前9時から午後5時まで無料で見学ができる。
萩駅舎は、大正14年に建てられた建物がそのまま現存しています。
しかし、山陰本線の萩での中心は東萩駅となっているため、萩駅は単なる中間駅となり、普通列車が思いだした頃にやってくるだけとなっています。
そのため無人駅となり、駅舎を解体する話もでたため、萩市が整備することにしてJR西日本から無償譲受しました。
萩市は譲受した翌月となる平成8(1996)年12月20日に、駅舎を国の登録有形文化財とします。さらに、整備して開設当時の様子に復元するとともに、駅前には大正末期から昭和初期にあった電話ボックスを再現しています。
そのうえで、平成10(1998)年4月17日に旧待合室を「萩市自然と歴史の展示館」としてオープンしました。いまも、毎日午前9時から午後5時まで、「萩市自然と歴史の展示館」として旧駅待合室を見学することができます。
整備が行き届いていて、この地域の鉄道の成り立ちを知ることができるほか、実際に使用していた鉄道関連機器等も見学できます。さらに、隣接する萩市観光案内所では、冊子「没後100年記念 日本の鉄道の父 井上 勝」(萩博物館編集、井上勝没後100年記念事業実行委員会発行)も一部100円で入手することができます。


イメージ
クリックして拡大
萩駅が完成し、山陰本線が開通した時から使われているという集札口。年季の入った木材が、歴史を物語っている。
萩駅舎の現待合室は、駅舎に向かって左端にあるこぢんまりとしたところです。
一方、駅舎に向かって右端には、集札口が残されていました。
かつて、利用客の多い駅では、乗車客と降車客の動線を分けるために、ホームに入場する改札口と、下車客がホームから出るための集札口がありました。
改札口はきっぷを販売する出札口近くに位置させるので、必然的に駅舎中心部のホーム側にあり、待合室からもつながっているものでした。
一方、集札口は大きな荷物を持った降車客が、出迎えに来た人たちと会ってすぐに三々五々と散っていくため、駅舎の端部に位置するのが一般的でした。その構造が、いまもそのまま残っているのです。
木製の柵は見るからに年季が入っていて、往時のにぎわいを想像させます。中央の柵の中に駅員が立ち、両端の柵を開けて降車客を通しつつ、きっぷを回収していたはずです。 この集札口は、見過ごしがちな駅舎端部にありますので、萩駅に行ったら忘れずに見てきたいものです。



掲載日:2018年06月15日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。