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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
関東最東端の駅を訪ねて (2) [No.H011]
関東最東端の駅を訪ねたあとは、先ほどきた線路を、いったん戻ります。下車するのは、銚子駅の一つ手前となる仲ノ町駅。
この駅には、銚子電気鉄道の車庫が併設されていて、うれしいことに、入場券を買うと車庫を見学できるのです。早速、駅の窓口で入場券を買います。料金150円と書いた硬券入場券がまた嬉しいです。入場券の裏には、仲ノ町車庫のアイドル「デキ3」のイラストが描かれています。
「デキ3」は、右の写真に写っている小型の電気機関車です。機関車というにはあまりに小ぶりなため、カワイイと人気があります。同機はドイツのアルゲマイネ社製で、生まれたのは大正11年…つまり1922年ですから90歳のお爺さんですね。銚子電気鉄道にやってきたのは昭和16年で、昭和59年まで仲ノ町駅とヤマサ醤油を結んでいた専用線で貨車を引っ張っていました。いまはご隠居の身分となり、仲ノ町車庫で悠々自適な毎日を送りつつ、私のように同機を目ざしてやってくる者を待っているのです。
「デキ3」以外にも、検査中の電車を眺めたり、時折やってくる定期列車をホームの反対側から眺めたりと楽しみます。見学者用の休憩所なども用意されていて、それでありながら自由に過ごさせてくれるので、とてもありがたい車庫です。もっとも、見学できる範囲は安全な場所に限られているほか、作業をされているときは邪魔にならないよう気をつけることは、当然ながら必要なことです。
仲ノ町車庫を見学したあと、駅の待合室にもどって次の電車を待ちます。木造駅舎は年代物で、懐かしいローカル駅の風情を今に伝えるものです。発車時刻表が手書きなのは、先に行った関東最東端にある海鹿島駅と同じ。でも、その隣には、昨今流行の萌えキャラが描かれたポスターが… このあたりに、平成20年代の今日現役の駅舎を感じます。
この駅舎の棟続きには銚子電気鉄道の本社があり、その入口には「仲ノ町売店入口 お気軽にお入り下さい。」と書いてあります。売っているのは、名物のぬれ煎餅や玄米あげもちなどで、鉄道グッズでは無いところにこの鉄道の歴史が感じられます。というのも、銚子電気鉄道は過去に何度も経営危機を迎えては生きながらえてきたのですが、ぬれ煎餅が一役買っているのです。
同鉄道で最初に存続の理由として話題になったのは、たい焼きでした。昭和50年に「およげ!たいやきくん」という曲が大ヒットしました。シングルレコードは450万枚も売れたそうで、いまだに国内最高記録となっているとのことです。このヒット曲に便乗して、駅でたい焼きを売り始めたところ、本業の鉄道の赤字をカバーできたというのです。
その後も、銚子電気鉄道は駅売店での食品販売に力を入れますが、たい焼きの売上が芳しくなくなってから注目されたのが、地場産のヤマサ醤油を使ったぬれ煎餅でした。この収益金でなんとか経営を続けてきたのですが、平成18年に前社長の横領が発覚して同社最大のピンチを迎えます。このとき、社員の機転で同社ホームページに大きく記された一言が話題になりました。
「ぬれ煎餅を買ってください!!」
この前代未聞の告知は、即日ネットで広く伝播され、ぬれ煎餅の注文が殺到しました。その結果、触れ煎餅の製造が追いつかなくて、しばらく注文受付を中止するほどの騒ぎにまでなりました。その売上げのおかげで車両検査費用を稼ぎ出すことができ、さらに応援態勢も強化されたことで、廃線の憂き目にあわずにすんだのです。
平成21年度の決算資料をみると、鉄道業での売上額が1億3,434万円なのに対して、食品製造販売業は3億7,650万円となっています。3倍近いですね。さらに利益額で見ると、鉄道業が9,549万円の赤字なのに対して、食品製造販売業は1億568万円の黒字です。ぬれ煎餅の収益が、いかに同社経営にとって大きいかが判りますね。
さて、電車がやってきました。
ちょっと乗って、次の観音駅で降ります。この駅は、銚子電気鉄道のなかでは珍しく町中にある駅で、前述の「およげ!たいやきくん」がヒットしたとき、大いにたい焼きを売った駅です。いまもその店は駅内にあり、たこ焼きとともに盛業中です。そのたい焼きを買って、駅ホームのベンチでほおばって次の電車を待ちます。一日乗車券「弧廻手形」を買ったので、気軽に乗り降りを楽しめます。
このあとは、終点の外川駅までいって、ロケ地にもなる古風な木造駅舎を楽しみ、犬吠駅にも寄って、「弧廻手形」についている引換券でぬれ煎餅をもらい、土産物を買うつもりです。
(完)
掲載日:2012年11月02日
この駅には、銚子電気鉄道の車庫が併設されていて、うれしいことに、入場券を買うと車庫を見学できるのです。早速、駅の窓口で入場券を買います。料金150円と書いた硬券入場券がまた嬉しいです。入場券の裏には、仲ノ町車庫のアイドル「デキ3」のイラストが描かれています。
「デキ3」は、右の写真に写っている小型の電気機関車です。機関車というにはあまりに小ぶりなため、カワイイと人気があります。同機はドイツのアルゲマイネ社製で、生まれたのは大正11年…つまり1922年ですから90歳のお爺さんですね。銚子電気鉄道にやってきたのは昭和16年で、昭和59年まで仲ノ町駅とヤマサ醤油を結んでいた専用線で貨車を引っ張っていました。いまはご隠居の身分となり、仲ノ町車庫で悠々自適な毎日を送りつつ、私のように同機を目ざしてやってくる者を待っているのです。
「デキ3」以外にも、検査中の電車を眺めたり、時折やってくる定期列車をホームの反対側から眺めたりと楽しみます。見学者用の休憩所なども用意されていて、それでありながら自由に過ごさせてくれるので、とてもありがたい車庫です。もっとも、見学できる範囲は安全な場所に限られているほか、作業をされているときは邪魔にならないよう気をつけることは、当然ながら必要なことです。
仲ノ町車庫を見学したあと、駅の待合室にもどって次の電車を待ちます。木造駅舎は年代物で、懐かしいローカル駅の風情を今に伝えるものです。発車時刻表が手書きなのは、先に行った関東最東端にある海鹿島駅と同じ。でも、その隣には、昨今流行の萌えキャラが描かれたポスターが… このあたりに、平成20年代の今日現役の駅舎を感じます。
この駅舎の棟続きには銚子電気鉄道の本社があり、その入口には「仲ノ町売店入口 お気軽にお入り下さい。」と書いてあります。売っているのは、名物のぬれ煎餅や玄米あげもちなどで、鉄道グッズでは無いところにこの鉄道の歴史が感じられます。というのも、銚子電気鉄道は過去に何度も経営危機を迎えては生きながらえてきたのですが、ぬれ煎餅が一役買っているのです。
同鉄道で最初に存続の理由として話題になったのは、たい焼きでした。昭和50年に「およげ!たいやきくん」という曲が大ヒットしました。シングルレコードは450万枚も売れたそうで、いまだに国内最高記録となっているとのことです。このヒット曲に便乗して、駅でたい焼きを売り始めたところ、本業の鉄道の赤字をカバーできたというのです。
その後も、銚子電気鉄道は駅売店での食品販売に力を入れますが、たい焼きの売上が芳しくなくなってから注目されたのが、地場産のヤマサ醤油を使ったぬれ煎餅でした。この収益金でなんとか経営を続けてきたのですが、平成18年に前社長の横領が発覚して同社最大のピンチを迎えます。このとき、社員の機転で同社ホームページに大きく記された一言が話題になりました。
「ぬれ煎餅を買ってください!!」
この前代未聞の告知は、即日ネットで広く伝播され、ぬれ煎餅の注文が殺到しました。その結果、触れ煎餅の製造が追いつかなくて、しばらく注文受付を中止するほどの騒ぎにまでなりました。その売上げのおかげで車両検査費用を稼ぎ出すことができ、さらに応援態勢も強化されたことで、廃線の憂き目にあわずにすんだのです。
平成21年度の決算資料をみると、鉄道業での売上額が1億3,434万円なのに対して、食品製造販売業は3億7,650万円となっています。3倍近いですね。さらに利益額で見ると、鉄道業が9,549万円の赤字なのに対して、食品製造販売業は1億568万円の黒字です。ぬれ煎餅の収益が、いかに同社経営にとって大きいかが判りますね。
さて、電車がやってきました。
ちょっと乗って、次の観音駅で降ります。この駅は、銚子電気鉄道のなかでは珍しく町中にある駅で、前述の「およげ!たいやきくん」がヒットしたとき、大いにたい焼きを売った駅です。いまもその店は駅内にあり、たこ焼きとともに盛業中です。そのたい焼きを買って、駅ホームのベンチでほおばって次の電車を待ちます。一日乗車券「弧廻手形」を買ったので、気軽に乗り降りを楽しめます。
このあとは、終点の外川駅までいって、ロケ地にもなる古風な木造駅舎を楽しみ、犬吠駅にも寄って、「弧廻手形」についている引換券でぬれ煎餅をもらい、土産物を買うつもりです。
(完)
掲載日:2012年11月02日
●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
可愛らしい外観はユーモラスでもある
平成24年に集電ポールが取り付けられた