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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
鉄道文化財をめぐる(2) 全線が文化財の若桜鉄道 [No.H012]
右の写真は、蒸気機関車に牽かれる貨車に大勢の人が乗っていますが、決して戦後の買い出しではありません。なにより、乗っている方々の服装が戦後ではないですよね。蒸気機関車の左上に写っている建物も、戦後にはありえない建て方です。
ここは、若桜(わかさ)鉄道の若桜駅構内です。
若桜(わかさ)鉄道がどこにあるか判る方は、かなり鉄道に詳しい方かと思います。
鳥取と関西を直通する特急「スーパーはくと」が、鳥取駅の次に停まる郡家(こおげ)駅から分岐している第三セクター鉄道です。鳥取〜郡家間はわずか10.3km、ここから若桜駅まで19.2kmが若桜鉄道です。まさに鳥取県の郊外に位置していますが、都市化とは縁の無さそうな、のんびりとした山里を走る路線です。
もともと国鉄若桜線でしたが、赤字ローカル線として国鉄分割民営化を機に廃止方針が打ち出されたため、7ヶ月間だけJR西日本に所属したあと、第三セクターとして独立しました。しかし、その後も少子高齢化の波をうけ、通学生は減少、通勤は既に車利用が基本になっているだけに、如何にして存続するかと沿線住民が自治体とともに動きました。
その各種施策が注目されているのですが、その一環として、今年10月18日(木)〜19日(金)に日本鉄道保存協会の総会が開かれました。その会期中に参加者が乗車したのが、この蒸気機関車に牽引される無蓋貨車というわけです。もちろん、私も参加して乗車しながら撮影しています。
日本鉄道保存協会は、国内の鉄道車両を保存する鉄道事業者やボランティア団体、それにその活動を応援する人々で構成されている会です。毎年、総会を会員の保存鉄道で行っていて、今年は若桜鉄道がその担当だったのです。
それだけに、若桜鉄道の取り組みについていろいろと見聞きできました。そのなかで、最も注目されるのがこの列車です。兵庫県加美町で静態保存されていたC12 167を譲り受けて動態復活したのですが、ボイラー試験をパスするのは障壁が高いからと、まずは圧縮空気で走らせることにしました。それも、本線とは離れた若桜駅のはずれでスタートです。駅の先に「道の駅若桜」があるのですが、その裏手まで200mほど線路を延ばしました。ここで、いま3〜11月の週末を中心に体験運転をしています。
あれ? 圧縮空気?…となると、蒸気機関車からでている煙は? と思いますよね、これ、薪を焚いて煙を作っているだけで、走りとは関係が無いのです。だから、蒸気機関車特有の、石炭を焚くにおいはしません。でも、圧縮空気で走る時には、シュッ!シュッ!という音がして、なかなか本格的です。
若桜鉄道は、既にJR四国から12系客車も購入していて、5年後には本線での蒸機列車復活を目ざしているそうです。
ところで、若桜鉄道の見どころは蒸気機関車だけではありません。日本で初めて、全線を文化財にした鉄道です。
国鉄時代からつづく鉄道だけに、国鉄時代の建築物が多くあります。それを全線にわたって丹念に調査したうえで、駅舎・ホーム・橋梁・転車台など合計23件も国の登録有形文化財に登録したのです。もちろん、蒸気機関車が方向を変える転車台や給水塔なども含まれています。これら登録文化財を全て見て回るだけでも、1日たっぷりかかります。
この成果をみて、同じく第三セクター鉄道のわたらせ渓谷鉄道と天竜浜名湖鉄道も、全線を文化財にしています。
その登録有形文化財の一つに、隼(はやぶさ)駅があります。
駅舎とホームが文化財登録されていますが、そのホーム側からみた駅舎が左写真です。なかなか渋い木造駅舎ですよね? ホームのベンチに座っているのは、ボランティアの方々が作って飾ってある人形です。
ところで、この駅はバイク好きな方々にも知られているそうです。その名も“隼”というスズキ製のバイクがあるため、同車のオーナーがこの駅を“聖地巡礼”するのだそうです。なかでも、毎年8月上旬の週末に実施する「隼駅まつり」には、全国から隼オーナーが集結するのだそうです。それも、参加者は毎年増えて、平成24年は、なんとバイク600台、参加者1000人以上になったとか。さすがに駅だけではこれだけの人は収容しきれないので、ちかくの公園や学校などを借りての開催となっているようです。
駅員室は週末を中心に開店するショップで、「隼駅訪問証明書」をはじめとしたハヤブサグッズを販売しています。また、よく整備された待合室の一角には「隼の駅掲示板」があり、この駅を訪問したライダー達が、思い思いに記念写真を貼り付けています。もろちん記帳もできて、そこには隼に対する熱い思いが記されています。列車を待つ間に、そんな一文一文を読むのも一考でしょう。
駅ホームのはずれには、北陸鉄道からやってきたED301が12系客車1両を連結した状態で静態保存されています。12系客車は「ムーンライトはやぶさ」という名の、週末限定の予約制休憩施設になっています。これらを一通り見るだけで、この駅に来て良かったと思えてきます。
なお、もう一駅寄る時間があれば、隣駅の安部駅がお勧めです。平成3年に映画「男はつらいよ〜 寅次郎の告白〜」のロケ地になった駅で、駅舎・ホームの雰囲気やバランスが絶妙です。なるほど、これならホームに寅さんが佇んでいても自然だと思わせるような、そんなすてきな駅です。
掲載日:2012年11月09日
ここは、若桜(わかさ)鉄道の若桜駅構内です。
若桜(わかさ)鉄道がどこにあるか判る方は、かなり鉄道に詳しい方かと思います。
鳥取と関西を直通する特急「スーパーはくと」が、鳥取駅の次に停まる郡家(こおげ)駅から分岐している第三セクター鉄道です。鳥取〜郡家間はわずか10.3km、ここから若桜駅まで19.2kmが若桜鉄道です。まさに鳥取県の郊外に位置していますが、都市化とは縁の無さそうな、のんびりとした山里を走る路線です。
もともと国鉄若桜線でしたが、赤字ローカル線として国鉄分割民営化を機に廃止方針が打ち出されたため、7ヶ月間だけJR西日本に所属したあと、第三セクターとして独立しました。しかし、その後も少子高齢化の波をうけ、通学生は減少、通勤は既に車利用が基本になっているだけに、如何にして存続するかと沿線住民が自治体とともに動きました。
その各種施策が注目されているのですが、その一環として、今年10月18日(木)〜19日(金)に日本鉄道保存協会の総会が開かれました。その会期中に参加者が乗車したのが、この蒸気機関車に牽引される無蓋貨車というわけです。もちろん、私も参加して乗車しながら撮影しています。
日本鉄道保存協会は、国内の鉄道車両を保存する鉄道事業者やボランティア団体、それにその活動を応援する人々で構成されている会です。毎年、総会を会員の保存鉄道で行っていて、今年は若桜鉄道がその担当だったのです。
それだけに、若桜鉄道の取り組みについていろいろと見聞きできました。そのなかで、最も注目されるのがこの列車です。兵庫県加美町で静態保存されていたC12 167を譲り受けて動態復活したのですが、ボイラー試験をパスするのは障壁が高いからと、まずは圧縮空気で走らせることにしました。それも、本線とは離れた若桜駅のはずれでスタートです。駅の先に「道の駅若桜」があるのですが、その裏手まで200mほど線路を延ばしました。ここで、いま3〜11月の週末を中心に体験運転をしています。
あれ? 圧縮空気?…となると、蒸気機関車からでている煙は? と思いますよね、これ、薪を焚いて煙を作っているだけで、走りとは関係が無いのです。だから、蒸気機関車特有の、石炭を焚くにおいはしません。でも、圧縮空気で走る時には、シュッ!シュッ!という音がして、なかなか本格的です。
若桜鉄道は、既にJR四国から12系客車も購入していて、5年後には本線での蒸機列車復活を目ざしているそうです。
ところで、若桜鉄道の見どころは蒸気機関車だけではありません。日本で初めて、全線を文化財にした鉄道です。
国鉄時代からつづく鉄道だけに、国鉄時代の建築物が多くあります。それを全線にわたって丹念に調査したうえで、駅舎・ホーム・橋梁・転車台など合計23件も国の登録有形文化財に登録したのです。もちろん、蒸気機関車が方向を変える転車台や給水塔なども含まれています。これら登録文化財を全て見て回るだけでも、1日たっぷりかかります。
この成果をみて、同じく第三セクター鉄道のわたらせ渓谷鉄道と天竜浜名湖鉄道も、全線を文化財にしています。
その登録有形文化財の一つに、隼(はやぶさ)駅があります。
駅舎とホームが文化財登録されていますが、そのホーム側からみた駅舎が左写真です。なかなか渋い木造駅舎ですよね? ホームのベンチに座っているのは、ボランティアの方々が作って飾ってある人形です。
ところで、この駅はバイク好きな方々にも知られているそうです。その名も“隼”というスズキ製のバイクがあるため、同車のオーナーがこの駅を“聖地巡礼”するのだそうです。なかでも、毎年8月上旬の週末に実施する「隼駅まつり」には、全国から隼オーナーが集結するのだそうです。それも、参加者は毎年増えて、平成24年は、なんとバイク600台、参加者1000人以上になったとか。さすがに駅だけではこれだけの人は収容しきれないので、ちかくの公園や学校などを借りての開催となっているようです。
駅員室は週末を中心に開店するショップで、「隼駅訪問証明書」をはじめとしたハヤブサグッズを販売しています。また、よく整備された待合室の一角には「隼の駅掲示板」があり、この駅を訪問したライダー達が、思い思いに記念写真を貼り付けています。もろちん記帳もできて、そこには隼に対する熱い思いが記されています。列車を待つ間に、そんな一文一文を読むのも一考でしょう。
駅ホームのはずれには、北陸鉄道からやってきたED301が12系客車1両を連結した状態で静態保存されています。12系客車は「ムーンライトはやぶさ」という名の、週末限定の予約制休憩施設になっています。これらを一通り見るだけで、この駅に来て良かったと思えてきます。
なお、もう一駅寄る時間があれば、隣駅の安部駅がお勧めです。平成3年に映画「男はつらいよ〜 寅次郎の告白〜」のロケ地になった駅で、駅舎・ホームの雰囲気やバランスが絶妙です。なるほど、これならホームに寅さんが佇んでいても自然だと思わせるような、そんなすてきな駅です。
掲載日:2012年11月09日
●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
圧縮空気で走る C12 167号機
「わかさ」のヘッドマークも用意されていた