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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

ダムに沈む駅と日本一短いトンネル [No.H015]

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日本一短い7.2mの樽沢トンネルを抜ける列車
木々が成長してトンネル部分が分かりにくいが
ちょうど電柱が建っている背後になる
日本一短いトンネルを知っていますか?
吾妻(あがつま)線にある樽沢隧道(ずいどう)というトンネルで、その長さはわずか7.2m。JRの電車はおおむね1両が20mなので、車体長の3分の1くらいしかないトンネルなのです。トンネルというと山をくり抜いた穴のイメージですが、ここは山から突き出している岩をくり抜いた感じです。
右の写真がそのトンネル部分ですけど、よくわからないですよね(苦笑)。先頭車両の真ん中から後ろが樽沢隧道を通過しているところで、2両目以降は木陰から見えています。ちょうど電柱が建っているところがトンネルというわけです。以前は岩肌がしっかり見えていたのですが、久しぶりに行ったらこんなに木々が成長していて、よく見えなくなっていました。

このトンネルは、列車に乗っているとさらに判りにくく、よほど気をつけていないと、知らない間に通り抜けてしまっているほどです。
場所は吾妻線の岩島〜川原湯温泉で、川原湯温泉駅から約2キロのところです。この駅からトンネルまでの間は、吾妻渓谷と呼ばれる渓谷美が展開されるところで、その遊歩道の入口もトンネル近くにあります。ですから、渓谷美を眺めつつ日本一短いトンネルを見に行くということができるところです。
吾妻渓谷の遊歩道は、川原湯温泉駅近くからはじまっていますが、駅側から歩く場合は高低差が結構あるので、ある程度足に自信がある方でないとお勧めしにくいです。対岸を走る吾妻線もあまり見られません。その点、線路沿いの国道は、歩道がほぼ完備されているうえになだらかな坂なので体力的に楽です。


その国道を歩いていると、途中に看板があります。その大見出しは

  八ッ場ダム  現在位置

というもの。
八ッ場(やんば)ダムといえば、民主党が政権をとった直後に建設を中止し、すったもんだしたうえで結局建設が再開された、あのダムです。そのダム本体が、この駅からトンネルまでの中間付近にできるというわけです。それも、看板が立っている位置は、その看板の図で見るとダムの堤高の真ん中あたり…つまり、この付近はダムの堤を構成するコンクリートでガッチリと固められる予定の部分というわけです。また、この看板から上流はダムに沈むことになります。

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川原湯温泉のほぼ真上に建設中の橋脚
この最上部がダム湖の湖面からでる位置なので
駅は完全にダム湖に沈んでしまう予定だ
どれくらい沈むかというのは、川原湯温泉駅にいくとさらにハッキリします。駅のすぐ近くに、たかぁ〜いコンクリート橋脚が建設されているのです。左の写真がその様子ですが、八ッ場ダム建設の是非でもめている頃にテレビでよくみたような橋脚ですよね。ただ、これはほぼ同じ形ながら、建設再開後により駅に近いところに建てられた橋脚です。写真右下に跨線橋が写っていますが、ここに川原湯温泉駅のホームがあります。橋脚の下の方ですから、完全にダム湖に沈む予定になっているわけです。
隣駅の岩島駅近くには、現在線から分岐する新線が建設中で、既に路盤はかなりできていて、線路も敷かれはじめていました。ダムの本体工事が始まる前後に、吾妻線は新線に切り換えられる予定です。そのとき、冒頭に記した日本一短いトンネル部分は廃線になります。ダムより下流なのでダム湖に沈むことはないのですが、列車が走らなければ意味がないですよね。
ちなみに、吾妻線の新線は、反対側の隣駅である長野原草津口駅付近までの10,390mの予定です。長野原草津口は、バスに乗り換えて草津温泉へ向かう駅です。草津温泉へ行く途中に、八ッ場ダムに沈む予定の区間と日本一短いトンネルに寄っていけるということですね。
訪れるなら、線路切換前の今のうちです。

掲載日:2012年11月30日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。