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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

碓氷峠の記憶を伝える169系が4月末で引退 [No.H030]

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横川駅近くの「碓氷峠鉄道文化むら」から
碓氷峠にさしかかるまでの廃線跡を走る
観光トロッコ列車「シェルパくん」
碓氷峠は、群馬県と長野県の県境に位置する急峻な峠です。
江戸時代から中山道の難所として知られており、信越本線でも国内屈指の難所でした。その険しさは半端でなく、横川~軽井沢間が開通した当初は、レール間にのこぎりの歯のようなラックレールが敷かれ、それに専用機関車がもつ歯車を噛み合わせて上り下りする、アプト式と呼ばれる特殊な歯車軌条を使っていました。その後、技術が進歩して歯車軌条は不要になります。それでも、ブレーキの神様とまで呼ばれたEF63形電気機関車が横川機関区に配置され、機関車牽引列車はもとより、電車や気動車も必ず坂の下にEF63を2両も連結して上り下りしていたのです。この状態が解消したのは、長野新幹線の開通でした。ただし、長野新幹線の開通と引き換えに、碓氷峠を含む横川~軽井沢~篠ノ井は並行在来線として廃線となってしまいました。

このうち、群馬県側の横川駅から碓氷峠の入口付近までは、「シェルパくん」という観光用のトロッコ列車が走っています。しかし、その先は軽井沢まで使われなくなってしまいました。ただし、当初のアプト線跡は、かなりの区間が遊歩道「アプトの道」として開放されています。このあたりについては、改めてご紹介する機会をもとうと思っています。

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国鉄の湘南色にもどって人気の、169系S52編成
これぞ直流急行電車と思う方も多いでしょう。
なお、車内は転換クロスシートに改造されています。
一方、長野県内の廃線区間である軽井沢~篠ノ井は、第三セクターしなの鉄道となって生き残りました。同社の列車は、篠ノ井~長野でJR路線に乗り入れて、長野駅まで直通運転しています。ちなみに、北陸新幹線の長野~金沢延伸時には、長野以北の信越本線も長野県内がしなの鉄道になる予定です。
そのしなの鉄道は、かつて信越本線で活躍していた車両をJR東日本から譲り受けて運行してきました。その多くは115系という近郊形の電車ですが、なかに急行形の169系電車もあります。上野から長野方面への急行「信州」「志賀」などの足として活躍していた車両です。そのうち3編成がいまも現役なのですが、全車が去る3月16日のダイヤ改正で定期列車から引退しました。

この先、次のイベントが予定されています。

3月31日(日) ラスト1ヶ月イベントin屋代駅
4月6日(土)・7日(日) 急行「信州」 軽井沢~篠ノ井間
4月14日(日) みんなの169系電車&バス集合
4月20日(土) 169系電車でめぐる北国街道の旅
4月27日(土)~29日(祝) ありがとう169系 S51編成、S52編成、S53編成

最後の「ありがとう169系」がファイナルイベントとなっています。イベントの詳細については、しなの鉄道の公式サイトで順次公開されるので、開催期日が近づいたらチェックしてから現地に行きたいところです。
なお、5月以降は未定で、ひょっとすると団体貸切列車などでいくらか延命できるかもとのことですが、基本的には4月末で引退ということになるようです。平坦線用の153系、山線用の165系、そして信越線用の169系が国鉄時代の直流急行形電車でした。しかし、JR各社を含めて、他社の国鉄形直流急行電車は既に引退していて、しなの鉄道の3編成が最後まで残る車両です。この最後の9両が引退すると、国鉄形急行電車は北陸本線に残る475系だけとなります。

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冠雪した浅間山をバックに走る、169系S52編成
かつては、急行として長い編成で走っていたところ
しかし、いまでは3連でしか走らない。

しなの鉄道の3編成のうち、S51編成は169系のトップナンバー、S53編成はしなの鉄道開業当初から活躍していた車両です。いずれもしなの鉄道のオリジナルカラーとなっていますが、S52編成だけは国鉄色に戻されたので特に人気があります。"湘南色"と呼ばれるオレンジ色と緑色の塗り分けで、湘南地方のみかんをイメージしたと言われていますが、日本の原風景に実に似合う塗装です。その最後の姿を、ぜひご覧いただきたいところです。



掲載日:2013年03月22日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。