日本旅行 トップ > JR・新幹線+宿泊 > 鉄道の旅 > 汽車旅ひろば > ひろやすの汽車旅コラム 「「行商列車」を知ってますか?」

[ ここから本文です ]

汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

「行商列車」を知ってますか? [No.H033]

イメージ
クリックして拡大
車内貫通路に張り出されていた、
「行商専用車」の案内。
青い幕で車内が見られないように
なっていた。
「行商列車」の文字をみて懐かしさを感じる方は、おそらく昭和時代に地方を旅した方々でしょう。昭和時代の地方線区では、早朝の列車の最後尾1両が「行商専用車」に指定されていたりしました。サボにもその旨が記されていて、一般人は乗ることができません。乗車しているのは、その日とりたての海産物や野菜を、市場から山間部の家々に売り歩く方々でした。ですから、荷物は大きいし少々生ぐさい臭いもしたものでした。

そんな行商列車を見かけなくなって久しくなりますが、実は、いまも走っていることをご存知でしょうか?
それも、先月(2013年3月)までは2箇所で走っていました。それらの写真を撮れたので、このコラムで紹介をと思った矢先に、なんとその一方が廃止されたとの報が届きました。それは、京成電鉄です。
成田空港近くの芝山鉄道芝山千代田駅(2013.1.18付コラムで紹介)を朝7:46に発車する、京成上野行各駅停車の最後尾1両がこの行商専用車となっていました。車内は、通り抜けができないように青い幕を張ったうえに

イメージ
クリックして拡大
「嵩高荷物専用車」のサボをつけた行商専用車の窓。
車内には大きな荷物が高く積まれていて、
顔なじみの行商者の方々は談笑されていた。
  この車輌は
  行商専用車
            です

との張り紙がしてあります。
また、停車する各駅には

  当駅7時46分発(平日)
  普通上野行の最後部一両は
                    行商専用車です
    (芝山千代田駅の例)

といった案内表示が見られました。
さらに、客室窓には「嵩高荷物専用車」というサボが取り付けられていました。たしかに嵩の高い荷物を持った方々が乗車されています。この列車は各駅に停車するうえ、優等列車の待避が続くため、京成上野駅の到着時刻は9:52です。全線乗車されるわけではないものの、時間がかかっても専用車両であれば一般客に気兼ねしないで良いとのことで使用される方が多かったのでしょう。
もちろん、以前は専用列車だったのが、利用者の減少にともなって定期列車の最後尾1両だけになったようです。それでももたず、ついに先月末の最終平日である3月29日(金)をもって廃止となりました。


イメージ
クリックして拡大
近鉄でいまも専用列車として走る「鮮魚列車」
以前の近鉄の塗装色のため、遠目にもそれとわかる。
行先表示器の「鮮魚」表示に注目!
一方、いまも現役で走っているのは、近鉄の「鮮魚列車」です。
宇治山田駅を午前6時過ぎに出発する専用列車で、車両の色も一般車とは異なるものです。専用列車ですので、一般人は乗ることができません。伊勢で獲れた新鮮な海の幸を大阪に運ぶ列車で、大阪の上本町駅に午前9時前に到着します。このルートの沿線で平日に待っていればその様子を見られますが、そのときには前面上部の行先表示器に注目です。そこに記されているのは「上本町」ではなく「鮮魚」なのです。
ただし、上本町駅に進入する際には誤乗を防ぐためでしょう、「回送」表示に変わっています。鮮魚列車が到着するホームには、台車をもって待機している方々がいられます。電車が停車すると、すかさず海産物をこの台車に積んで、それぞれのお店へと運ぶわけです。

イメージ
クリックして拡大
上本町駅に到着する「鮮魚列車」。
ホームには、台車を持って到着を待つ方々の姿がある。
行先表示はすでに「回送」となっている。
道路が未発達だった昭和時代に、全国的に普及した行商列車ですが、次第に縮小されていったのはともかく、最後まで残ったのが地方ではなく東京と大阪、それもどちらも大手私鉄というのは、なんとも面白いですよね。それだけ、東京と大阪の市場性は大きく、その割に道路の整備が追いついていなかったということでしょうか。かつての行商列車の面影を残す近鉄の鮮魚列車には、今後も引き続き活躍して欲しいところですね。


掲載日:2013年04月12日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。