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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

蘇った昭和の急行 キハ28+キハ52 [No.H036]

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国鉄ローカル線を彷彿させる
キハ28(手前)とキハ52(奥)の2両編成
いすみ鉄道の「急行」として土日祝に走っている
右の写真をみて、懐かしい! と思う方は多いと思います。国鉄時代に、よくローカル線で見かけましたよね。でも、これは懐かしい写真では無く、今年3月に撮ったばかりの写真なのです。
ここは、千葉県の外房にある大原駅から、房総半島内陸部に向かう第三セクター「いすみ鉄道」です。城下町の大多喜(おおたき)を通り、上総(かずさ)中野まで26.8kmの鉄道線です。昭和時代は国鉄木原線だったのですが、ご多分にもれず赤字ローカル線として廃止対象となり、昭和63年3月から第三セクターいすみ鉄道となりました。第三セクターとなってしばらくは、特に目立つこともない鉄道でした。しかし、平成21(2009)年に空席となった社長を公募します。そのときに応募し、選ばれた鳥塚社長が就任されてから、いすみ鉄道は大きく変わります。同年、いきなり「ムーミン列車」を走らせ始めました。同時にムーミン関連グッズの販売などもはじめます。
外資系航空会社に勤めながら、独自に鉄道の展望ビデオの会社も経営されてきた鳥塚社長ですから、根っからの鉄道好きでいられます。それだけに、国鉄時代の車両に思い入れがあり、その車両は集客ができることもご存知です。そこで、JR西日本で廃車になったディーゼルカーを購入して、いすみ鉄道で走らせるという大胆な行動に出ます。まずは、大糸線で廃車になったキハ52というディーゼルカーを購入。平成23(2011)年から「急行」として走らせはじめます。続く平成24(2012)年には、高山本線を最後に廃車となったキハ28を購入、準備期間を経て、今年3月9日からキハ52と連結した2両編成での運転が始まりました。

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国吉駅に到着する「急行」
乗客はカメラを構えて到着を待つ。
左側には、今年購入したキハ30が留置されている
キハ28は、急行用のディーゼルカーです。それだけに、「急行」運用は似合います。一方のキハ52は普通列車用のキハ20系に属していて、国鉄のローカル線ではキハ28系が不足すると「急行」として走っていました。つまり、キハ28+キハ52という「急行」は、国鉄時代のローカル線で同じような編成が実際にみられたものとなります。
ちなみに「急行」は土日祝に1日に2.5往復するのですが、うち2往復ある大多喜~上総中野間は普通列車となります。つまり、「急行」として運転されるのは大原~大多喜間2.5往復だけ。しかも、途中通過する駅は3駅だけのうえ、所要時間は定期普通列車と同等です。観光客向け急行といえばよいでしょうか。それでも人気があって、週末には大勢の方がいすみ鉄道を訪れています。
急行料金は300円で、指定席のキハ28ボックスシートにはさらに300円の指定席料金が必要となりますが、急行券付き一日フリー乗車券1,800円があります。急行にも乗り放題で、1回は指定席にも乗車できるというものです。通常の一日フリー乗車券は1,000円ですので、お得感がありますよね。
昨年、房総半島のJRローカル線久留里線は新車になりましたが、そのとき廃車となったキハ30も購入しています。いま国吉駅に留置されていますが、もともと国鉄木原線…つまり、今のいすみ鉄道を走っていた車両です。これも動態復活したい様子が、社長ブログに記されています。

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今年登場した新車「いすみ351」
外観は国鉄キハ10系に似ていて嬉しい
2両目のキハ350形とは窓配置と形状が異なっている
一方、老朽化した一般車車両の代替として入線した新製車「いすみ351」は、なんと国鉄キハ10系ディーゼルカーのような外観で登場しました。同系で先に登場した「いすみ301,302」の2両も雰囲気的に似ているのですが、やはり"第三セクター用の車両"というイメージです。正面・側面の窓形状やヘッドライトなどを少し変えただけですけど、見た目の印象は大きく違います。私のように、若い頃にさんざん国鉄で旅をした者には、なんとも嬉しい形状です。ムーミンのキャラクターの一つである「スナフキン」のラッピングをしています。
沿線は、のんびりとした田園風景が広がる里山です。気候の良い時期に、のんびりと乗って楽しむ旅に行く先として、首都圏からは日帰りができるお手頃な鉄道です。


掲載日:2013年05月02日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。