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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
真岡鐵道に「SLキューロク館」がオープン [No.H041]
北関東を走る真岡鐵道は、「SLもおか」号が年間を通して週末を中心に走っていることで知られています。営業線を走るSL列車は全国各地にありますが、年間を通じて走っているのは、この真岡鐵道と静岡県の大井川鐵道だけです。
起点の下館駅は、JR水戸線と関東鉄道常総線も発着するターミナル駅です。アクセスは、小山まで東北新幹線か東北本線で行き、水戸線に乗り換えるのが一般的でしょう。途中に、結城紬で知られる結城駅もあります。
その下館駅は茨城県ですが、真岡鐵道で4駅すすんだ久下田(くげた)駅から栃木県となります。その後、中心駅である真岡駅、益子焼で知られる益子駅を経て茂木(もてぎ)駅まで、北関東の比較的平坦なのどかな景色のなかを走ります。全線41.9kmで、「SLもおか」号の所要時間は1時間半です。平坦な土地とはいえ、茂木~天矢場をはじめとした峠もあり、力強く煙を吐く箇所が散見されるので、乗っても見ても楽しい路線です。
茂木駅からは、JR宇都宮に抜けるバスがあるほか、週末にはレーシングコースで知られる「ツインリンクもてぎ」へのバスもあります。ただし、「ツインリンクもてぎ」へのバスは「SLもおか」号と接続していないので、注意が必要です。
さて、その真岡鐵道の本社がある真岡駅前に、今年4月28日(日)に新たな観光施設ができました。それが「SLキューロク館」です。
"キューロク"というのは、大正時代に製造された国産蒸気機関車の名機9600形の愛称です。その9600形の49671号機が、この「SLキューロク館」の主です。9600形なのに5桁の機号は不思議に思えますよね。これには理由があります。9600番から順に製造していくと、100両目が9699号機になります。そこで、101両目を9700号機にしようとしたところ、当時、既に9700形という形式ができていたのです。そこで、100位の数字を形式名の前…つまり、万の数字にしました。ですから、101両目の9600形は19600号機となりました。この結果、車号に必ず"キューロク"が入ることになったのです。49671号機は、9600形の471号機ということも判りますよね。
大正2年から製造開始された9600形ですが、49671号機が製造されたのは大正9年ということです。その後、大正15年までに旧国鉄に対して770両も製造されました。そんな製造後間もなく100年になろうとする蒸気機関車が、40年弱の静態保存期間を経て、今春蘇ったのです。わずか120mの展示線ですが、実際に見ている前で動きます。ただし、動力は圧縮空気です。石炭を焚いて蒸気を作るのではなく、空気のコンプレッサーを積み込み、その圧縮空気をシリンダーに入れて動かします。そのため、煙はでませんし、近寄っても熱くありません。
「SLキューロク館」は入館無料で、開館は10~18時。毎週火曜日が定休日です。ただし、49671が走るのは日曜日と祝日だけで、10:30,12:00,14:30の1日3回、各2往復となっています。ですから、行くなら日祝が良いでしょう。
9600形の特徴は、大きなボイラーと小さな動輪です。大きなボイラーは、蒸気をたくさん作るために必要です。また、動輪は大きければスピードが出ますが、重い貨物を引き出すときに空転(スリップ)し易くなります。その点、9600形は動輪直径1,250mmと子どもの背丈ほどの大きさで、代わりに4軸左右8個の動輪を有しています。昭和になって貨物用蒸気機関車として造られたD51形は同じく4軸左右8個の動輪ですが、動輪直径は1,400mmです。急行旅客用のC57形は3軸左右6個の動輪で、動輪直径は1750mmですから、9600形は随分と胴長短足なわけです。なんだか、日本人の典型的な体型を思い起こしますよね。そんなずんぐりむっくりなスタイルのため、力持ちで重宝されたのです。
その使いやすさから、国鉄の現役蒸気機関車として、最後まで働いていたのが実は9600形でした。室蘭本線でC57形牽引の旅客列車が廃止され、続いて夕張線でD51牽引の石炭貨物列車が廃止され、最後に残ったのが、室蘭本線追分機関区で入れ換えに従事していた3両の9600形だったのです。
それだけに、9600形のファンは大勢います。でも、これまで自力で動くことができる9600形はありませんでした。そこに今回の動態復活ですから、キューロク好きな筆者もオープンしてすぐに行ってきた次第です。
「SLキューロク館」の建物は、SLの形をしたユニークなものです。そのすぐ横には、貨車やディーゼルカーも静態保存されていて、9600形が活躍していた頃の国鉄を思い出させます。「SLキューロク館」内には、急行として活躍した客車も展示されていて、乗車することができます。49671号機は運転していないときに、その運転席を見学することもできます。通常、進行方向左側に運転席があるのですが、この49671号機は右側に改造された珍しい機関車です。そんなことも、現地に行ったらぜひ見てきて下さいね。
掲載日:2013年06月07日
起点の下館駅は、JR水戸線と関東鉄道常総線も発着するターミナル駅です。アクセスは、小山まで東北新幹線か東北本線で行き、水戸線に乗り換えるのが一般的でしょう。途中に、結城紬で知られる結城駅もあります。
その下館駅は茨城県ですが、真岡鐵道で4駅すすんだ久下田(くげた)駅から栃木県となります。その後、中心駅である真岡駅、益子焼で知られる益子駅を経て茂木(もてぎ)駅まで、北関東の比較的平坦なのどかな景色のなかを走ります。全線41.9kmで、「SLもおか」号の所要時間は1時間半です。平坦な土地とはいえ、茂木~天矢場をはじめとした峠もあり、力強く煙を吐く箇所が散見されるので、乗っても見ても楽しい路線です。
茂木駅からは、JR宇都宮に抜けるバスがあるほか、週末にはレーシングコースで知られる「ツインリンクもてぎ」へのバスもあります。ただし、「ツインリンクもてぎ」へのバスは「SLもおか」号と接続していないので、注意が必要です。
さて、その真岡鐵道の本社がある真岡駅前に、今年4月28日(日)に新たな観光施設ができました。それが「SLキューロク館」です。
"キューロク"というのは、大正時代に製造された国産蒸気機関車の名機9600形の愛称です。その9600形の49671号機が、この「SLキューロク館」の主です。9600形なのに5桁の機号は不思議に思えますよね。これには理由があります。9600番から順に製造していくと、100両目が9699号機になります。そこで、101両目を9700号機にしようとしたところ、当時、既に9700形という形式ができていたのです。そこで、100位の数字を形式名の前…つまり、万の数字にしました。ですから、101両目の9600形は19600号機となりました。この結果、車号に必ず"キューロク"が入ることになったのです。49671号機は、9600形の471号機ということも判りますよね。
大正2年から製造開始された9600形ですが、49671号機が製造されたのは大正9年ということです。その後、大正15年までに旧国鉄に対して770両も製造されました。そんな製造後間もなく100年になろうとする蒸気機関車が、40年弱の静態保存期間を経て、今春蘇ったのです。わずか120mの展示線ですが、実際に見ている前で動きます。ただし、動力は圧縮空気です。石炭を焚いて蒸気を作るのではなく、空気のコンプレッサーを積み込み、その圧縮空気をシリンダーに入れて動かします。そのため、煙はでませんし、近寄っても熱くありません。
「SLキューロク館」は入館無料で、開館は10~18時。毎週火曜日が定休日です。ただし、49671が走るのは日曜日と祝日だけで、10:30,12:00,14:30の1日3回、各2往復となっています。ですから、行くなら日祝が良いでしょう。
9600形の特徴は、大きなボイラーと小さな動輪です。大きなボイラーは、蒸気をたくさん作るために必要です。また、動輪は大きければスピードが出ますが、重い貨物を引き出すときに空転(スリップ)し易くなります。その点、9600形は動輪直径1,250mmと子どもの背丈ほどの大きさで、代わりに4軸左右8個の動輪を有しています。昭和になって貨物用蒸気機関車として造られたD51形は同じく4軸左右8個の動輪ですが、動輪直径は1,400mmです。急行旅客用のC57形は3軸左右6個の動輪で、動輪直径は1750mmですから、9600形は随分と胴長短足なわけです。なんだか、日本人の典型的な体型を思い起こしますよね。そんなずんぐりむっくりなスタイルのため、力持ちで重宝されたのです。
その使いやすさから、国鉄の現役蒸気機関車として、最後まで働いていたのが実は9600形でした。室蘭本線でC57形牽引の旅客列車が廃止され、続いて夕張線でD51牽引の石炭貨物列車が廃止され、最後に残ったのが、室蘭本線追分機関区で入れ換えに従事していた3両の9600形だったのです。
それだけに、9600形のファンは大勢います。でも、これまで自力で動くことができる9600形はありませんでした。そこに今回の動態復活ですから、キューロク好きな筆者もオープンしてすぐに行ってきた次第です。
「SLキューロク館」の建物は、SLの形をしたユニークなものです。そのすぐ横には、貨車やディーゼルカーも静態保存されていて、9600形が活躍していた頃の国鉄を思い出させます。「SLキューロク館」内には、急行として活躍した客車も展示されていて、乗車することができます。49671号機は運転していないときに、その運転席を見学することもできます。通常、進行方向左側に運転席があるのですが、この49671号機は右側に改造された珍しい機関車です。そんなことも、現地に行ったらぜひ見てきて下さいね。
掲載日:2013年06月07日
●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
平坦な北関東の風景が多い沿線だが、
こんな峠もあって、全線飽きずに楽しめる。