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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

もと東武特急DRC車内で昼食を「レストラン清流」 [No.H064]

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神戸(ごうど)駅上りホームに停車中(?)の、
もと東武特急DRC (Deluxe Romance Car) 車。
車内がレストランの客室となっている。


今回ご紹介するわたらせ渓谷鐵道は、群馬県の桐生市と栃木県の旧足尾町(現・日光市)を結んでいます。足尾の地名から想像がつくように、足尾銅山の採掘にあたって造られた国鉄足尾線がもとで、いまは第三セクター鉄道として走っています。ほぼ全線にわたって渡良瀬川沿いを走る風光明媚な路線のため、紅葉シーズンはもとより、年間を通じてその車窓を楽しむ観光客が多数見られます。
桐生~間藤間の全線は44.1kmで、所要は1時間30分前後ですが、その中ほどにある神戸(ごうど)駅に着くと、上りホームに特急列車がいます…でも、なんかヘン。よくみると中間車が2両だけで、先頭車がありません。
これは、「レストラン清流」という飲食施設の一部で、もと東武鉄道の看板特急であるDRC (Deluxe Romance Car) 1720系を留置して使用しているのです。今も活躍するスペーシアに代替わりする1991(平成3)年まで、「きぬ」「けごん」といった浅草と日光・鬼怒川温泉を結ぶ特急列車として活躍していた、当時の花形特急車です。


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車内は、全座席を向かい合わせにしてテーブルを配置。
そのほかの内装等は、現役時代を色強く残している。
テーブル上は、お勧めという「舞茸ごはん定食」1200円
無人駅の神戸駅ですので、改札の駅員さんに気兼ねすることなく利用ができます。もちろん、ドライブがてら立ち寄ることもできます。その2両のDRCの中間に「レストラン清流」の入口があり、入ったところが注文カウンターと厨房です。お勧めは「舞茸ごはん定食」1200円ということで、早速注文をしました。セルフサービス方式で、できあがった料理をもってDRC車内に行き、空いてる席で食べるという具合です。
車内は転換クロスシートをすべて向かい合わせにして、その間にテーブルが設置されています。これだけ大きなテーブルを設置できるほどのシートピッチだったわけで、いかにデラックス感を考えて設計された車両であるかが感じられます。見る限り内装に大きく手が加えられておらず、それでいて清掃は行き届いています。着席すると、窓の外はホームですから、かつての東武特急に乗った気分です。ここで、揚げたての舞茸の天ぷらと日本そば・炊き込み御飯にサラダ・付け合わせをゆっくりと楽しめるのは、なんとも愉快ですよ。


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いまや貴重なホームの立ち売りが、神戸駅で見られる。
元気なお姿は、神戸駅ふるさと駅長の金子さん。
トロッコ列車の運転日にお目にかかることができる。
食事を済ませて駅のホームにでると、ちょうど上り列車が入ってくるところです。すると、立ち売りの方がいられます。駅構内での弁当立ち売りの姿は、いまや全国的に数えるほどとなってしまいましたが、第三セクター鉄道の駅で見られるとは…と一声おかけして写真を撮らせていただきました。
わたらせ渓谷鐵道では、2009(平成21)年に開業20周年を迎えるのを機に、ボランティア駅長を公募しました。12の無人駅で、清掃・点検・接客等にあたっていただく方で、「ふるさと駅長」の愛称がついています。その神戸駅のふるさと駅長さんが、この金子さんです。ご地元で金子農園を経営されていて、自家製の農産物を神戸駅舎で販売する傍ら、列車が到着するとホームに出ては、このように立ち売りをされているそうです。"出店"されるのは、トロッコ列車が走る日ということです。
筆者は20年近く前にもこの神戸駅を訪れているのですが、当時は単なる無人駅のホーム端に「レストラン清流」があるだけの駅でした。閑静な山間の駅という印象でしたが、同時に誰もいない駅は少し寂しい感じもしました。それが、今回訪れて、活気ある駅になっていることを実感しました。金子ふるさと駅長の存在が、これほどまでに駅に活気を与えているのだと感じ入った次第です。
「レストラン清流」で食事をして、駅舎で金子農園の農産物を買い求め、ホームでの立ち売りを眺めながら来た列車に乗り込む旅。久しぶりに"汽車旅"を堪能した日となりました。



掲載日:2013年11月15日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。