日本旅行 トップ > JR・新幹線+宿泊 > 鉄道の旅 > 汽車旅ひろば > ひろやすの汽車旅コラム 「トンネル駅を楽しむ…「日本一のモグラ駅」上越線土合駅」

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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

トンネル駅を楽しむ…「日本一のモグラ駅」上越線土合駅 [No.H083]

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「日本一のモグラ駅」の案内板がある土合駅。このトンネル駅の出口は、この階段を延々と登ったさき…
「汽車旅コラム」では、これまでに、次のトンネル駅を紹介してきました。
2013年 7月26日 ほくほく線・美佐島駅
2013年11月22日 北陸本線・筒石駅
2014年 1月10日 野岩鉄道・湯西川温泉駅1/2
2014年 1月17日 野岩鉄道・湯西川温泉駅2/2

残るトンネル駅は、上越線にある2駅です。
今回は、そのうちの土合(どあい)駅をご紹介します。
上越線といえば、川端康成氏の小説「雪国」の冒頭「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」を思い出す方も多いことでしょう。その国境の長いトンネルとは、谷川岳の下を抜ける清水トンネル9,702mです。新潟県と群馬県の県境にあるトンネルで、群馬県側に出たところに土合駅は位置しています。
川端康成氏が小説「雪国」を記した頃、上越線はまだ単線運転をしていました。しかし、戦後復興にあわせて旅客・貨物ともに需要が激増すると、複線化するためにもう一本のトンネルが掘られました。昭和42(1967)年に開通した、新清水トンネル13,500mです。清水トンネルより4割近く長くなりましたので、清水トンネルの群馬県側すぐにある土合駅は、新清水トンネルのトンネル内となってしまいました。それも、清水トンネルは両端にループ線があって高度を稼いでいるのに対して、新清水トンネルは真っ直ぐに掘ったため、土合駅ホームは駅舎から70.7mも下がった地下深くに造られました。
その地上とホームをつなぐ階段は、ご覧の通り延々と続いている感じで、ときには温度差で地上付近が霞んで見えないことすらあります。階段左下には『ようこそ「日本一のモグラ駅」へ」の案内板があり、階段は462段ある旨が記されています。


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土合駅下りホームは、以前通過線と待避線の2線あったが、いまは待避線の上にホームが造られ、1線となっている。

左の写真は、新清水トンネルにある土合駅下りホームです。左側の奥に、駅舎へと続く階段が見えますよね。先にご覧いただいた階段の写真は、その階段の一番下で撮ったものです。
ところで、写真の右側のホームは何だか変ですよね。一番右に少しだけ写っているのが線路で、その左にホームがありますが、そのホームはJRになってできたものです。実は、このホームの下にも線路があり、もともとの乗降ホームはさらに左側にみえる、現在柵で立ち入り禁止となっている部分でした。新清水トンネルが開通した当時は、上野と新潟を結ぶ特急「とき」が頻繁に走り、その合間を縫うようにして普通列車と貨物列車が走っていたため、この土合駅にも待避線を設け、そこに旅客用ホームを設置したのです。それが、上越新幹線の開通により列車本数が激減したため、待避線を使わなくなり、今のようになりました。
ちなみに、写真を写した位置の後方には、待合室もできています。その待合室のかたわらに「名所案内」があるのですが、谷川岳、天神平スキー場とともに、次の名所が記されています。

清水トンネル 北500m 徒歩5分 延長9,702m
新清水トンネル 土合駅地下ホーム 徒歩10分 延長13,500m

その名所案内の隅には、「海抜583.41M」の記載があります。この海抜は正しいようですが、そうすると、上記名所の「清水トンネル」「新清水トンネル」はどちらも間違いとなります。というのも、この場所が、土合駅地下ホームだからです。どうやら、地上の上りホームと同じ内容のようです。それはともかくとして、ホームまで「徒歩10分」というのはなかなか見られない表記ですよね。
所要時間は人によりますが、途中で休みながらだと、やはり10分程度の余裕は見ておきたいところです。ちなみに、土合駅はいま無人駅ですが、駅員がいた頃には、列車発車時刻の10分前に改札を終了するという断り書きがありました。



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462段の階段を登ってホッとすると、この扉があります。さらに24段あるとの案内で「がんばって下さい」と励まされます。
さて、意を決して階段を登りましょう。この日本一のモグラ駅を体験しようとする方は結構多く、夏場の週末ともなると、土合駅に着く列車ごとに何名もの乗客が下車するほどです。また、駅前に車をとめて、物珍しげに地下ホームまで往復する"観光客"も意外に多いです。みなさん登る際には一様に息を切らせ、途中で何度か休んでは登っていきます。これを一気に登れる人は、かなり体を鍛えている方に限られるでしょう。
階段の端には数字が記されていて、どの辺りまで来たかも判るようになっています。寒い季節でも汗ばむような階段ですが、夏場は地下が涼しいうえ、地上の駅舎も標高653.7mと高原地帯にあるので、思ったほどには汗を掻きません。
その462段の階段を登り切ると、太陽の光が差し込むところにでてホッとします。そこには、昔の学校の廊下のような通路が続いているのですが、その入口にある扉になにやら書いてあります。右上の写真です。これで登り終えた…と思った人はガッカリする、まだ24段の階段があるとの案内です。それだけでは気の毒と思ったのでしょう。最後の一行は、
「がんばって下さい。JR土合駅」
と励ましの一文になっています。
駅に来て励まされる機会はそうそうないですよね。そういう意味でも希代な駅といえるでしょう。ものは試し、話のネタに一度行かれることをお勧めします。なお、上越線の列車はいまとても少ないので、事前に列車の時刻を調べていって下さいね。ちなみに、駅前のバス停から、上越線の水上駅を通って上越新幹線上毛高原駅に行く関越交通の路線バスも使えます。上越線の列車とあわせて利用するのも手ですよ。




掲載日:2014年04月11日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。