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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

西武安比奈線を知っていますか? 休止線の現状を訪ねて [No.H123]

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雑草に埋もれ、レールが途切れている安比奈線の起点付近。廃線跡のように見えるが、休止線の扱い。
西武鉄道安比奈(あひな)線を知っていますでしょうか? 国土交通省鉄道局監修の鉄道要覧平成二十六年度版をみると、次のように記されています。

●西武鉄道(株) 安比奈線
南大塚~安比奈・3.2瓩 第一種
動力・電気 軌間1.067米
届出年月日 25.11.28
休止期間 25.12.1~26.11.30

つまり、営業を休止している路線というわけです。
南大塚駅は、西武新宿線の本川越駅から新宿方向に一つ目の駅です。同駅の本川越寄りの西側に、線路が分岐している様子が電車内からも確認できます。でも、休止線というより廃線跡の様相です。現に、レールは草に埋もれているうえ、途中で途切れて、新宿線とはつながっていないようです。
「瓩」はkmの意味ですので、延長3.2kmの電化線ということになります。実際、写真をみると架線はあったりなかったりですが、架線柱はしっかりと立ち並んでいます。


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鉄橋もしっかりとしたものがあり、手入れをすれば使えそうな様子になっている。
安比奈線の沿線にはいまも民家が多くないことからもわかるように、入間川の砂利を採取しては都心へと運ぶための貨物線でした。1923(大正12)年に関東大震災がありましたので、その復興需要で活躍した路線というわけです。ですから、旅客営業はしていませんでした。
線形は、南大塚駅を出たところで左に大きくカーブしたあとは真っ直ぐな直線です。1925(大正14)年2月に開業する際に、田園地帯を横切って入間川へ最短のコースをとった線路だということがわかります。
休止線ですので、線路敷きはしっかりと保全され続けています。 ただし、1963(昭和38)年には役割を終え、休止線になったのは1967(昭和42)年のことです。つまり、すでに半世紀も使われていないわけです。それだけに、道路との交差部…つまり踏切部分は、線路がアスファルトで埋められていたり、レールだけが顔をだしていたりといった状態です。
この線路敷きは立入禁止となっているので、その様子をみるには、周囲の公道を右往左往しながら見ていくことになります。そのなかで、特に目を引くのが上の写真にある鉄橋です。ご覧の通り、錆びてはいるもののしっかりとしたもので、枕木の交換など、そこそこ手入れをすれば使えそうな感じです。


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2009(平成21)年3-9月のNHK連続テレビ小説「つばさ」で、トロッコの走るシーンのロケ地となったところ。
安比奈線の様子をみて歩くと、その様子は刻々と変化していきます。田んぼを突っ切ったあと、雑木林を抜ける付近はよい雰囲気となっています。さらにその先で、右の写真の橋があります。線路敷きに杭が打ってあったり、両端に木製の柵があったり、レールの下には鉄板が敷いてあったりと、何か変ですよね?
実は、この先で、2009(平成21)年3-9月に放映されたNHK連続テレビ小説「つばさ」のロケがされたのです。同番組をご覧になった方でしたら、トロッコを押して走らせたシーンと記せば判るでしょうか? 西武鉄道では、このロケのためにこの部分を整備するとともに、同年10月24日に安比奈線ウォークを実施して、この区間も含めて安比奈線を特別公開しました。その頃に整備したので、いまもこのような形で残っているわけですね。
ここから先で、線路が大きく左カーブをすると入間川の河川敷になります。しかし、その手前で県道が谷瀬大橋へと駆け上がる築堤が邪魔して、線路が途切れています。砂利を積み込んでいたあたりに西武新宿線の車両基地を造ろうとの構想があり、安比奈線は休止線を続けてきていますが、近年、その車両基地についての進展が見られないようです。このままだと、いずれ休止から廃止への流れも考えられそうです。


掲載日:2015年01月23日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。