日本旅行 トップ > JR・新幹線+宿泊 > 鉄道の旅 > 汽車旅ひろば > ひろやすの汽車旅コラム 「三重県に、公有民営の四日市あすなろう鉄道が誕生」

[ ここから本文です ]

汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

三重県に、公有民営の四日市あすなろう鉄道が誕生 [No.H134]

イメージ
クリックして拡大
公有民営方式で誕生した「四日市あすなろう鉄道」は、古くからの町並みを縫って走る地元密着型の鉄道。
4月1日(水)、三重県に新たな鉄道が誕生しました。「四日市あすなろう鉄道」といいますが、新規開業ではありません。前日まで、近畿日本鉄道(近鉄)の内部(うつべ)・八王子線として走っていた路線の運営を引き継いだものです。
近鉄四日市駅に隣接する「あすなろう四日市」駅を起点とし、内部駅まで全長5.7kmの内部線と、起点から2駅目の日永駅から分岐して西日野駅までの一駅間1.3kmの支線・八王子線からなっています。支線の終点が西日野駅なのに八王子線を名乗っているのは、かつてその先にある伊勢八王子駅まで線路があったためです。昭和49(1974)年7月の豪雨被害で川沿いを走っていた部分が廃止となり、分岐する日永駅から内陸部を走っていた1.3kmだけが残った路線です。
一方、主となる内部線は旧東海道に沿って走る路線のため、沿線は古くから栄えた土地となっています。それだけに、落ち着いた町並みが続しています。


イメージ
クリックして拡大
四日市あすなろう鉄道のレールの幅(軌間)は762mmと、新幹線の1,435mmの半分くらいしかない。
左の写真は、内部線(左)と八王子線(右)が分岐する日永駅で撮影したものです。両線ともに、あすなろう四日市駅を起終点として全線を往復する運用となっていて、この日永駅で必ず両線の電車が行き違うダイヤとなっています。
写真をみると判るように、車両は小ぶりで、レールとレールの間隔(軌間=ゲージ)は762mmしかない狭軌鉄道です。近鉄線の多くや新幹線は標準軌と呼ばれる1,435mm軌間ですので、その半分ほどの幅しかないわけです。ちなみに、JR在来線や多くの私鉄の軌間は1,067mmです。
国内で四日市あすなろう鉄道と同じ軌間を使用している旅客鉄道は、他に2路線だけです。同じ三重県内にある三岐鉄道北勢線・西桑名~阿下喜間20.4kmと、富山県の黒部峡谷鉄道・宇奈月~欅平間20.1kmです。同軌間の鉄道がこれほど少ないのは、小さな車両で輸送力が限られているため、全国にあった他の路線は次々に廃止されていったためです。ちなみに、このようなJR在来線より狭い軌間の鉄道路線は、明治43年に制定された軽便鉄道法によって生まれました。ですから、地域によっては「けいべん」とか「けーびん」のように呼ばれていたそうです。


イメージ
クリックして拡大
駅名標が新しくなったものの、施設は近鉄時代のものを受け継いでいる。
さて、近鉄が運行していた内部・八王子線が別会社になったのは、毎年の赤字額が大きいために廃止方針を打ち出したことによります。近鉄は四日市市と打合せを続けるなかで、線路敷きを舗装してバスを走らせるBRT(Bus Rapid Transit)方式への転換が望ましいとの提案をしていました。一方、四日市市は鉄道線での存続を基本とする方針で、公有民営方式を模索しました。
公有民営方式とは、鉄道施設を地方自治体が所有し、維持管理を行います。そのうえで、電車の運行や切符の販売など営業関係については鉄道会社に任せる体制をいいます。平成21(2009)年4月から公有民営化した鳥取県の若桜鉄道が、公有民営化の第1号です。同鉄道の路線は2町にまたがっているため、若桜町と八頭町の2町がそれぞれに設備を所有し、若桜鉄道に運行を任せる体制となっています。同様な公有民営方式は、青森県の青い森鉄道、滋賀県の信楽高原鐵道でも行われていて、三重県の伊賀鉄道も2年後に公有民営方式に移行することが決まったところです。
では、公有民営になると何が変わるのでしょうか。いまのところ、四日市あすなろう鉄道では、近鉄四日市駅があすなろう四日市駅となり、若干の運賃値上げがあったほか、全駅の駅名標が新会社のデザインになった程度の変化です。しかし、この先では車両の更新など大きな投資が見込まれています。それらの負担は、四日市市が負うことになります。それでも存続するメリットがあると踏んだわけですので、是非ともこの公有民営化が成功して欲しいものですよね。


掲載日:2015年04月10日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。