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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

日本一の距離を運転体験できる“りくべつ鉄道”2/2 [No.H145]

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日本で長距離の体験乗車ができないのは、踏切が多いため。りくべつ鉄道は駅外れの踏切を歩くことで対応。
さぁ、いよいよ体験運転です。(この先をご覧いただく前に、先週分もご覧下さい。)
まずは、陸別駅構内での復習運転です。「Lコース」で習ったときの勘所を、ここで思い出すわけです。
陸別駅構内といっても、前回記した通り500mもの長い構内ですので、これだけでも他所で行われている運転体験の多くより距離が長かったりします。
勘が戻ったところで…といっても、もともとさほど勘が身についているわけではないのですが(笑)、陸別駅のもっとも北の端で訓練車から降ります。というのも、その先に踏切があるのです。
駅構内や線路敷きは私有地ですので、その中で運転体験ができます。しかし、踏切は踏切道という公道が線路を横切っていますので、道路交通法が適用されて、原則として運転体験ができません。公道を利用している歩行者や自動車などの安全を考えると当然ですよね。
このため、踏切が多い日本では長距離の体験運転が難しいのです。ところが、ここは北海道。目の前の踏切を歩いて越えれば、その先1.6kmものあいだ、踏切がないのです。つまり、踏切から次の踏切までの長さで、体験運転ができる距離が決まり、りくべつ鉄道では1.6kmの運転ができるというわけです。
なお、月に一回程度“駅構外乗車体験列車”が設定されています。運転体験ではなく乗るだけですので、誰でも参加ができます。そのときは、陸別駅で乗車すると、そのままこれから運転していく先まで乗っていくことができる特別な列車です。この列車を走らせるときには、警察署に届け出て許可を受けたうえで、踏切に安全要員を立たせる対応をしているそうです。


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訓練車内に貼り出されている駅名一覧(左)と、途中にある「カネラン」駅の駅名標(右)。
踏切を歩いて越えた先に車庫があり、中に次の訓練車が停まっています。この車庫を出たところが寛斎駅です。ここから、日本一の距離の運転体験がはじまります。ちなみに寛斎とは、関寛斎(せき かんさい)という陸別の開拓に尽力した人物の名前です。
車内の乗降扉上には、左の写真にあるとおり、「りくべつ鉄道 路線図」として、駅名が記されています。
陸別駅は、旧陸別駅のホームがあるところです。
体験運転G(銀河)コースを始めるのが寛斎駅で、途中にカネラン駅があり、下勲祢別駅(しもくんねべつえき)まで1.6kmを運転します。
その先には、分線駅と川上駅とあり、下に「延伸予定」と記してあります。そうなんです、体験運転区間をさらに延伸する予定があるのです。すごいですよね。ちなみに、分線駅も川上駅も、ちほく高原鉄道時代に実在した駅です。

各駅にホームがあるわけではありませんが、写真の通り駅名標が建っていて、駅っぽい雰囲気を出しています。また、勾配票、速度制限標識などがあり、それらを意識しながら運転するという、本格的な運転体験を楽しめます。
筆者の場合、これまで電車ばかり3箇所で運転したことがありましたが、ほぼ平坦で短い区間でしたので、ブレーキングがうまくないとはいえ、それなりに発進・停止ができました。
ところが、りくべつ鉄道は寛斎駅から下勲祢別駅まで、ずぅっと5‰(パーミル)の緩い上り勾配です。この勾配がブレーキ力に影響することは頭で判っているものの、実際にやってみるとどうもうまくいきません… 往路の感覚で復路にブレーキをかけると、思ったところで停まりません。復路の感覚で往路のブレーキングをすると、思いっきり手前で停まってしまいます。


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下勲祢別駅のすぐ先にある踏切。百恋駅という駅舎ができていました。延伸時に使う予定なのでしょう。
1.6kmの区間を繰り返し往復するのですが、その都度、途中のカネラン駅にも停車します。つまり、往路で2回、復路で2回発進と停車をします。しかし、あれ? あれ? あれ? と思っているうちに、体験運転の時間が終わってしまいました…
指導運転士が丁寧なアドバイスをしてくださるのですけど、それを頭が判っても判断力が追いつかない状態で終始したのでした。あちゃ~

終点の下勲祢別駅すぐ先には、踏切があります。この踏切が、体験運転を1.6kmと決めさせたのです。その踏切道を渡った先には建設会社があり、関係車両が通るほか、林道につながっているでその関係車両も通る踏切のようです。
その傍らには、「百恋駅」と記した駅舎が建っていました。その先の線路はすぐに草に埋もれた状態になっていましたが、いずれこの区間でも体験運転ができるのか…と思うと楽しみです。


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運転体験証明書(右)と、一緒にもらえる「陸別美味いもの巡り 特別クーポン」(左)
体験運転を終えると、陸別町内で使える商品券1,000円分と、「陸別美味いもの巡り 特別クーポン」、それにその運転体験証明書をいただけます。商品券は、陸別駅がある「道の駅 オーロラタウン93りくべつ」でお土産を買うのにも使えます。
運転体験証明書の裏面は「CR70・75形ディーゼル気動車運転体験記録確認表」となっていて、この日の日付と証明印が押されています。次回以降も運転体験をする際には、この証明書を毎回持参して、体験を終えるごとに証明印を受けるようになっているのです。

筆者が体験運転をした日は天気が良くて、冬季に冷え込むことで知られる地とは思えないような暖かさでした。車内は窓を開けて運転を始めれば、ちょうど心地よい気温だったのですが、運転中は、緊張感でジワッと汗が出てきました(笑)
それでも、終わってみれば達成感と満足感を感じる、じつに貴重な体験となりました。

読者の多くの方は、陸別をそうそう簡単に行けるところではないと思われることでしょう。筆者もそう思っていました。でも、行くぞと決めれば、女満別空港から1時間強、帯広空港や釧路空港からだと2時間強の場所です。運転免許を持っている方であれば、レンタカーを使うことで意外とアクセスしやすい地です。特に、帯広からだと、北海道らしい十勝の景色を堪能しての道中となりますので、気分爽快でアクセスできます。
詳しくは、りくべつ鉄道のホームページをご覧下さい。


掲載日:2015年07月03日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。