日本旅行 トップ > JR・新幹線+宿泊 > 鉄道の旅 > 汽車旅ひろば > ひろやすの汽車旅コラム 「未成線を活用した、高森湧水トンネル公園」

[ ここから本文です ]

汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

未成線を活用した、高森湧水トンネル公園 [No.H156]

イメージ
クリックして拡大
きれいな公園に見えるが、実はここが高森駅の移転予定地。奥のトンネルが馬蹄形なのは、鉄道トンネルの名残。
右の写真をみて、なんだ鉄道の話題じゃないんだ…と思われた方がおいででしょう。でも、タイトルから判るように、鉄道の話題です。
というのも、この水辺の公園は、国鉄高森線の終点だった高森駅が移転予定だった場所なのです。地図をみると、南阿蘇鉄道(旧・国鉄高森線)は、終点の高森に着く直前に大きく左カーブしています。そのカーブを曲がらず、まっすぐに行ったところにこの高森湧水トンネル公園があります。
さらに、写真の奥に写っているトンネルの断面が、裾のすぼまった馬蹄形になっていることも見て取れますよね。鉄道用トンネルとして掘られたために、このような形になっているのです。
この高森トンネルは、全長6,480メートルの予定で昭和48(1973)年12月に着工しました。ところが、2,055メートルまで掘り進んだところで、大量出水に見舞われました。その際、高森町内の八カ所の湧水が枯れてしまい、水道がでなくなるという問題も起きたそうです。そこで工事が中断となりました。昭和50年2月のことでした。

鉄道を延伸する目的は、宮崎県側の延岡から高千穂まで延びていた国鉄高千穂線につなぎ、熊本から阿蘇を経て延岡までを結ぶ九州横断鉄道の建設でした。当時、高千穂方からも工事が進んでいたのですが、国鉄の赤字が問題となっていた頃で、昭和55(1980)年には国鉄再建法が制定されて延伸の夢が消えたのでした。このように、建設が予定されながら開通しなかった鉄道線を、未成線と呼んでいます。
この鉄道が完成した際には、高千穂駅をこの高森湧水トンネル公園の地に移転させる予定だったそうです。そのために、トンネルに比べて公園の幅が広くなっています。


イメージ
クリックして拡大
装飾品が飾られて賑やかなトンネル内。左隅に待避坑があるところに、鉄道トンネルの跡が感じられる。
高森湧水トンネル公園の先にあるトンネルは、大人300円、子供100円で公開されています。月曜休館で、毎日午前9時から午後6時までですが、7,8月は午後7時まで、11-3月は午後5時までです。高森駅から歩いて10分ほどですし、車の場合は大きな無料駐車場が公園周りにあるので、アクセスも便利なところです。
入場料を払ってトンネルに入ると、夏は涼しく冬は暖かく感じます。気温17℃、水温13℃と年間一定だそうです。その水が、毎分32トンも沸いているそうで、いまでは高森町の水源となっているとのことです。

トンネルの下部中央に湧水が流れる川が造ってあり、その両端が歩道となっています。トンネル断面はさきほど入口でみたとおり馬蹄形で、途中、ゆるやかにカーブを描いているところも鉄道トンネルらしき様相です。
さらに、トンネルの壁のところどころに半円形の窪みがあります。列車が通過する際に、保線作業員等が列車を避けるために入る待避抗です。この待避抗の存在こそ、鉄道トンネルとして造られたことを雄弁に語ってくれる存在です。
なお、トンネル内には様々なイルミネーションがありますが、これは毎年「七夕まつり」と「クリスマスファンタジー」のイベント開催時に飾られるものだそうです。地元の方々が工夫を凝らして作ったもので、微笑ましい作品からプロレベルの作品まであって、見ながら歩いていると飽きません。


イメージ
クリックして拡大
550メートル進んだ最深部にあるウォーターパールは、水玉の動きが幻想的で、一見の価値あり!
湧水トンネルは2,055メートルのうち、入口から550メートルが公開されています。その最深部には、トンネル工事の先端部を模した壁が作られています。水神様が祀られているところは、さすがに大量出水でできたトンネルだけあります。
その傍らにあるのが、「ウォーターパール」と呼ばれる幻想的な人口滝です。
右の写真にあるように、水が水玉となって落ちる様子が見られるのです。水の落下速度にしてはやけにゆっくりと落ちるなと思いきや、やがて停まったり、上がっていったりもします!
もちろん、水が重力に逆らって上がることはありませんので、これは目の錯覚です。水玉を作る装置と特殊ストロボを使って、この様子を創り出しているそうです。
これは一見の価値がありますよ。


掲載日:2015年09月18日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。