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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

日本夜景遺産の鉄道を楽しむ…岳南電車 [No.H172]

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日本夜景遺産に選定された岳南鉄道。吉原駅は東海道本線の吉原駅に隣接し、背後には工場の煙突も見える。
「日本夜景遺産」を知っていますか?
2004年7月に発足した組織で、国内の観光資源となる夜景を選定しています。
   ・自然夜景遺産
   ・施設型夜景遺産
   ・ライトアップ夜景遺産
   ・歴史文化夜景遺産
の4タイプがあるようですが、詳しくは日本夜景遺産のホームページをご参照下さい。
さて、鉄道として初めて日本夜景遺産に認定されたのが、静岡県の岳南電車です。施設型夜景遺産として、2014年に認定されています。
岳南電車は文字どおり富士山の南麓を走る鉄道ですが、全線わずか9. 2kmという小私鉄です。もともと富士市内に多くある製紙工場からの製品を出荷するためにできた鉄道ですが、2012年春のダイヤ改正で貨物列車は全廃となり、いまは日中一時間に片道2本の電車が走る路線となっています。
その起点となる吉原駅は、東海道本線吉原駅に隣接していますが、夜になると背後に明るい建物はなく、製紙工場の煙突が暗闇にそそり立つばかりです。


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岳南原田駅のホーム端に建つと、製紙工場の間を走る鉄道だということがわかる。工場萌えの気持ちも理解できる光景だ。
岳南電車は、コの字を左右反転したような線形で、その外周には古くからの街があります。一方、コの字の内側は工場が多くあり、その工場地帯を抜けた終点近くは田園地帯となります。
このような立地のため、駅の近くに明るい場所があまりなく、蛍光灯が煌々と照る駅舎や駅ホームが闇に浮かび上がります。これが、全線にわたって日本夜景遺産に認定される鍵となったようです。
また、本吉原~岳南原田~比奈間を中心に工場地帯を縫って走るため、工場萌えと呼ばれる工場の景観愛好者が好む夜景を楽しむこともできます。特に、岳南原田駅のホーム端からは、左の写真のとおり、工場夜景を手軽に楽しめます。
寒いこの時期は、煙突から白い煙が立ち上っていることも多く、時間が停まったように動かない夜景に、動きを与えてくれます。


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比奈駅のホームは、闇の中に浮かび上がっている。かつては貨車が留置されていた構内だが、いまはガランとしている。
比奈駅は、貨物列車が走っていた頃、電気機関車が貨車の入替・組成をしていた活気ある駅でした。ところが、いまはひっそりとした無人駅です。構内が広い分、夜の気配をより感じさせてくれます。
上下あわせると、1時間に4本の列車がくる駅とはとても思えませんよね。その静かで落ち着いた雰囲気に、つい立ち止まって見入ってしまいました。

比奈駅は、竹取物語の由来となった地と言われていて、駅から1キロほどのところには「竹採公園」という竹林が生い茂る公園があります。
暗闇の構内で満月を見たら、月に帰りたい気分を味わえるかも…。この日はあいにく、月が出ていませんでしたが。

いまは真冬で寒いですが、夜が長いので、夜景を楽しみやすい時期ともいえましょう。前述の通り、寒い時期には製紙工場の煙突から白い煙が見えることが多いです。ピシッと締まった空気感に、神経を集中しての夜景見学をし易いのもこの時期です。虫の苦手な方であれば、冬場であれば虫がいないので、その点でもお勧めです。
暖かい恰好をして、岳南電車へ日本夜景遺産を見に行きませんか?


掲載日:2016年01月22日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。