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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

和歌山電鐵に、4編成目の改装車「うめ星電車」が登場 [No.H193]

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テープカット後、デザインの趣旨説明をする水戸岡デザイナー(右)と、たま駅長二世「ニタマ」を抱く小嶋社長(左)
去る2016年6月4日に、和歌山電鐵では4編成目となる改装車「うめ星電車」がデビューしました。
同社は、10年前に南海電鉄から貴志川線の経営を引き継いだ後、「いちご電車」(2006年8月)「おもちゃ電車」(2007年7月)「たま電車」(2009年3月)とほぼ毎年、特徴ある改装車を登場させました。これらの車両は、路線終点となる貴志駅の猫・たま駅長の人気と相俟って、減少一途だった乗客数を増加に転じました。地元の方の利用増と、地元以外の来訪者のそれぞれが増えたのです。
今回、約7年ぶりとなる改装車「うめ星電車」が登場することで、同社の所属6編成中、4編成が特徴ある改装車となりました。いつ行っても楽しい、でも、一日だけではすべての改装車に乗れない状況がさらに進んだわけです。これはもうリピーターになって、何度も足を運ぶしかないでしょう。
その新登場した「うめ星電車」について、今回ご紹介します。


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赤しそ漬けした梅干しの色を車体色に採用した「うめ星電車」。車体のいたるところに専用ロゴを散りばめている。
「うめ星電車」は「梅干し」ではありません。
もともとは、小嶋社長が和歌山の名産品である南高梅から発想して、貴志川線再建10周年記念の「梅干し」をテーマにした電車をと考えたそうです。
一方、これまで改装車のデザインを一手に引きうけている水戸岡氏は、JR九州で日本を代表する超豪華列車「ななつ星in九州」を手掛けて話題となりました。そこから、「ななつ星」に対する「うめ星」という命名を思いついたということです。
このアイデアをもとに、水戸岡氏がデザインに着手し、このほど完成した次第です。



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2両編成の貴志側連結面には、和歌山の特産品が並ぶコーナーがある。
では、「うめ星電車」の車内をみてみましょう。
沿線の方が通勤通学など日常生活に使う電車ですので、ロングシートであることに変わりはありません。だからといって、遊び心がダメという理由もないでしょう。シートの座面素材や背もたれに工夫を凝らす一方で、貴志側の車両連結面には右の写真のようなショーケースが置かれています。他の改装車両にもそれぞれのキャラに応じた棚類がありますが、「うめ星電車」の場合は、和歌山県産品の紹介コーナーとなっています。
和紙・備長炭・醤油・せんべい・手まり・漆器・地酒などに混じって、たま駅長グッズがあるのは、和歌山電鐵らしさでしょうか。


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木製の窓枠飾りには、障子のブラインドを組み合わせた、和歌山側車両の窓。貴志側車両には木製すだれが架かる。
「うめ星電車」が採用し、他社では真似ができないなと思ったのが、窓の改装です。
2両編成の和歌山側車両の窓には、木工細工による枠飾りがはめ込んであります。その枠飾りと窓ガラスの間にあるブラインドは、なんと障子! いたずらをする乗客を考えたら、採用に二の足を踏む和紙ですが、小嶋社長は式典での説明で、これまでの改装車を乗客の皆さんが大事に綺麗に使ってくれたお陰と話しています。
窓の上部に幔幕を張ったのも、他社では真似をし難い改装手法と思います。



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梅の枝が描かれた天井は、総木張りとしている。クーラーキセも含めて、ラッピングではないところがお見事。
電車に乗ると、ついつい窓から下ばかりに目がいきますが、「うめ星電車」は天井まで木製素材でこだわっています。それも、ところどころに木製品を配置するのではなく、天井全体に描かれている梅の木が、すべて木製になっているのです。えてしてこの手の改装だと、クーラー部分だけ対象から外したりしがちですが、そんな手抜きも全くありません。クーラーキセまで木製にするとは、恐れいりました。
もちろん、つり革の把手部分も木製にしています。





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連結面の貫通扉上には、「たま駅長」のイラストが額に入れて飾ってある。
和歌山電鐵といえば、その象徴は「たま駅長」でしょう。先年に他界したものの、その功績は大きく、いまも「たま電車」に限らず和歌山電鐵の象徴的存在として君臨しています。
「うめ星電車」にも、その「たま駅長」がいました。2両編成の連結面にある貫通扉の上に、和歌山側・貴志側それぞれに、額に入った「たま駅長」のイラストが飾られているのです。そのさらに天井近いところに「うめ星電車」のエンブレムがあり、「たま駅長」のイラスト画はとっても小さいものです。それにも関わらず、誰もがすぐにその存在に気付き、「たま駅長」と判るところに、その存在感の大きさを感じます。
和歌山電鐵と「たま駅長」は、切っても切れない縁で結ばれているのでしょうね。



掲載日:2016年06月24日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。