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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

観光列車「めでたいでんしゃ」が走る、加太さかな線 [No.H197]

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鯛色をした「めでたいでんしゃ」。屋根上機器は、背びれをイメージした赤色で、側面前方には大きな目玉も描かれている。
南海電鉄は、加太(かだ)観光協会・磯の浦観光協会と共同で、「加太さかな線プロジェクト」を立ち上げました。和歌山市の北を走る加太線に「加太さかな線」という愛称をつけて、観光客の誘致をしようという取り組みです。
その象徴として、観光列車「めでたいでんしゃ」を走らせています。右の写真が同列車です。なんとも華やかな外観ですよね。さかなの鯛をイメージしたものだそうです。

加太線は、南海電鉄の和歌山のターミナル駅である和歌山市駅から一つ大阪寄りにある、紀ノ川駅で分岐しています。文字どおり紀ノ川の近くに位置する駅で、紀ノ川の右岸を進みます。
しかし、紀ノ川はすぐに海に流れついてしまうので、加太線は海岸線に沿ってやや北上します。終点の加太駅までは、紀ノ川駅から9. 6km、所要21分というローカル線です。ただし、全列車が和歌山市駅まで直通しています。
単線で、日中は30分に1本の列車が走り、中間付近にある八幡前(はちまんまえ)駅で上下列車が交換しています。


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つり革の握り手は、魚の形をした木製品。つり革の柄にも丸い鯛のマーク。そのほか車内のあらゆるところに魚があしらわれている。
「めでたいでんしゃ」は、土休日に和歌山市駅8:51発から同駅19:23着まで走っていますが、平日は運行時間が定まっていないので、同車の専用サイトで確認する必要があります。
「めでたいでんしゃ」に乗ると、車内もこだわりの魚装飾となっています。
左の写真を見ての通り、つり革は握り手の部分が魚の形をしています。それも、木製というこだわりです。その上にある柄(え)には、赤地に白抜きで鯛が描かれた紋章があります。
座席も鯛柄ですし、ドアにも鯛、ドア下の床には魚たち。窓ガラスに鯛が泳いでいて、魚網をイメージした柄のロールカーテンを巻き揚げて捕獲? と、魚尽くしです。

2両編成の和歌山市側の車両には「加太のめで鯛」、加太側の車両には「加太のむす雛」という縁起物の木彫り飾りがあります。いずれも、加太の淡島神社で祈祷済というこだわりです。
ちなみに、淡島神社は縁結びのご利益があるとのことで、「むす雛」と呼ぶようです。
乗るだけで、おめでたい気分になる電車ですよね。

なお、「加太さかな線プロジェクト」として走る観光列車「めでたいでんしゃ」ですが、乗車には予約も特別料金も要りません。運賃だけで乗車できる気楽な列車です。


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終点・加太は港町。宮崎アニメにでてきそうな漁港のたたずまいがうれしく、その先には流し雛で知られる淡島神社もある。
加太は港町として栄えただけあって、駅から港まで町が形成されています。
加太駅からは、15分ほど歩くと海岸線に出ます。船を陸揚げするためのインクラインが海辺にならび、その先に町ができている様子は、宮崎アニメに出てくるような光景です。
その町の一角にある淡島神社は、前述の「めでたいでんしゃ」で飾られている縁起物の御祓いをしたところです。
女性の守り神として信仰されるとともに、人形供養の神社としても知られています。社殿をはじめ境内のいたるところに奉納された雛人形が見られますが、なかには、紀州徳川版から奉納されたという貴重なものもあるといいます。

もちろん、新鮮な魚介類が味わえるお店があるほか、肌がツルツルになる重曹泉が自慢の温泉もあります。
片道約20分の船に乗ると、4つの島からなる友ヶ島の沖ノ島に着きます。島内には散策コースが整備されていて、展望台や砲台跡などを歩いて回ることができます。
加太さかな線に乗って、加太の町をゆっくりと歩き味わう…そんな一日を過ごすのによいところですよ。


掲載日:2016年07月22日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。