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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
観光列車「田園シンフォニー」が奏でるふれあい 1/2 [No.H208]
くま川鉄道は、JR肥薩線・人吉駅で接続している人吉温泉駅から、球磨川に沿って湯前(ゆのまえ)駅にいたる、24. 8kmの第三セクター鉄道です。国鉄時代は湯前線と呼ばれていたローカル線で、宮崎県にあった妻線と結ぶ計画でした。しかし、その夢が実現することはなかった盲腸線です。
そのくま川鉄道には、毎週金~月曜日と祝日に、片道だけ走る観光列車があります。「田園シンフォニー」と名づけられた同列車は、人吉温泉駅11時11分発、湯前駅12時05分着の全車指定席です。
他の定期列車は44分で全線を結んでいるところ、「田園シンフォニー」は54分もかけています。この10分の違いは途中駅での停車時間によるもので、川村駅約3分、おかどめ幸福駅約3分、あさぎり駅約4分と長時間停車をします。これらの駅には、お楽しみが用意されているのです。
さらに、駅間でも通常列車よりゆっくりと走り、車窓の見どころがあればさらに減速をするといったサービスもあります。
今回と次回の2回にわたり、筆者が9月にこの「田園シンフォニー」に乗ってみた際のレポートをお届けします。
JR肥薩線の人吉駅で下車し、同駅舎の並びにある“くま鉄ゲストハウス「くまたび」”に行きます。ここは、平日に観光案内やグッズ販売とともに旅行商品の販売をしているところです。土休日は休店日ですが、「田園シンフォニー」の予約者受付も行っているため、同列車運転日の10~11時に開店しているのです。
「田園シンフォニー」に乗るには、指定席料金300円に加えて片道運賃690円が必要です。乗車券と指定席券は一緒に予約ができます。なお、往復する場合には、一日乗車券と指定席券がセットになった特製きっぷ1,500円(小人1,200円)があるので、このきっぷを予約しておくとお得で便利、さらに記念品にもなります。
“くま鉄ゲストハウス「くまたび」”を出ると、すぐ脇に跨線橋があります。出発時間までにこの跨線橋を渡って、人吉温泉駅に行きます。…といっても、もともと国鉄湯前線として使っていた湯前駅5番ホームですので、肥薩線を越えてすぐのところです。
指定席券には「白号車」と書いてあります。…?と思ったものの、ホームに行けば判りました。青い車両と白い車両が連結されているのです。その湯前側に連結されている白い車両が、指定された白号車というわけです。
さっそく乗ると、車内は木製品を多用したウッディな内装となっています。地元産品を並べた棚があるところも含めて、JR九州をはじめとして多くの鉄道で活躍されているデザイナー・水戸岡氏のデザインだということがひと目で分かります。
この白号車は、4人向かい合わせのボックスシートと、ドア横のロングシートがありますが、どちらにもテーブルが用意されています。一方、青い車体の「夏」号車には2人用クロスシートや窓に向かって座る形のカウンター席があるものの、テーブルが全席にあるわけではありません。どうやら、予約内容によって使い分けているようです。
ちなみに、くま川鉄道には現在5両が在籍していて、残る3両は、ベージュ色の「春」、赤色の「秋」、茶色の「冬」となっています。この全車が「田園シンフォニー」に使用されますが、他の定期列車にも使用されています。このような車両を定期列車で使用というのは、贅沢ですよね。
定刻の11時11分に人吉温泉駅を発車した「田園シンフォニー」は、しばらくJR肥薩線を走ったうえで、自社線に入ります。すぐに最初の駅となる相良藩願成寺駅に着き、再び発車するとアテンダントさんから“木々のトンネル”をくぐるとの案内がありました。
どれどれと運転席横へ見に行くと、なるほど、木々の鬱蒼とした繁みのなかに、列車が通る分だけ枝葉が切り取られていて、まさにトンネル状になっています。くま川鉄道は比較的平坦な人吉盆地を走るためトンネルがなく、この木々のトンネルが唯一のトンネルだそうです。
人吉温泉駅から2駅目となる川村に近付くと、アテンダントさんから駅ホームでのおもてなしの案内がありました。再び運転席横に行ってみると、なるほど間もなく到着するホームには、にこやかに手を振っている方々がおいでになります。本日のおもてなし隊です。
そろいの赤い前掛けが、折からの陽射しを浴びて鮮やかに輝いて見えます。
すぐ後ろにカッパの像が写っていますが、近くを流れる球磨川の支流・川辺川にカッパ伝説があることに由来します。村内にはカッパの墓があり、相良村のゆるキャラは「サガラッパ」というそうです。
川村駅のホームに降りると、おもてなし隊のみなさんがお茶を振る舞って下さいます。地元・相良村産の茶葉を使ったお茶とのことです。まだ残暑厳しい9月だったので、冷えたお茶でしたが、それにも関わらず濃厚で実においしい一杯でした。
このおもてなしは、「田園シンフォニー」1便につき1-2か所で行っているそうですが、この川村駅で行われることが多いようです。それだけ、川村駅のおもてなし隊「川村駅を勝手に守る会」の活動が活発ということでしょう。
そのおもてなし隊の中でも目を引くのが、御年94歳の名誉駅長・下田幸(みゆき)さん。
2014年3月の「田園シンフォニー」運行開始に際して、沿線の方々に協力を呼びかけた際に、快く引きうけられたといいいます。ちなみに、ホームで出迎えて下さった方々は「川村駅を勝手に守る会」の会員でつくる「おもてなしべっぴん隊」の方々だそうです。なるほど、べっぴんさんです。
下田名誉駅長が被っていられる帽子は、2015年12月28日に名誉駅長を任命された際に、くま川鉄道から贈呈されたものだそうです。また、そのお手元にある縫い物は、下田名誉駅長お手製のもので、お茶などの名産品とともにお土産として買うことができます。
「田園シンフォニー」の乗客たちとは、停車時間中のほんの一瞬の出会いですが、笑顔を振りまいたり記念写真に一緒に写ったりと大活躍でした。まだまだお元気な様子ですので、今後も長らくご活躍の姿をみられることでしょう。
川村駅でのおもてなしを楽しんで、再び発車した「田園シンフォニー」は、車内のざわめきが収まる間もなく徐行をはじめます。そこは長い鉄橋上ですが、車窓左手をみると、川の上流が二手に分かれています。右が球磨川の本流で、左はその支流となる川辺川です。この川辺川沿いに、前述のカッパ伝説があるのです。
球磨川というと、日本三大急流と球磨焼酎しか頭に浮かばない筆者にとって、このように車窓解説をしてもらっての汽車旅は、ただ乗っているだけでは知り得なかったことを数多く習得できる貴重な場でした。
この先でも、アテンダントさんは、車窓ガイドを適宜してくださいます。
ところで、これまで走っていた球磨川の右岸は相良村でしたが、鉄橋を渡った左岸は錦町(にしきまち)となります。肥後西村(にしのむら)・一武(いちぶ)・木上(きのえ)と、やや難読な3駅が錦町です。ちなみに、くま川鉄道には、人吉温泉駅を入れて14駅があります。
その錦町で最初となる肥後西村駅には、錦町のマスコットキャラクター「錦太郎」くんが来てくれていました。「錦太郎」と書いて「きんたろう」と読むそうです。
錦町は剣豪とフルーツの里を謳っているため、剣道着に竹刀を持ち、梨・桃・茶の葉で飾った頭には、球磨川の流れを表した髪の毛があります。ただ、この日は竹刀を持っていないようでした。両手を振るためには、致し方ないですよね。
このようなおもてなしを受けて、「田園シンフォニー」は進みます。
[続く]
掲載日:2016年10月07日
そのくま川鉄道には、毎週金~月曜日と祝日に、片道だけ走る観光列車があります。「田園シンフォニー」と名づけられた同列車は、人吉温泉駅11時11分発、湯前駅12時05分着の全車指定席です。
他の定期列車は44分で全線を結んでいるところ、「田園シンフォニー」は54分もかけています。この10分の違いは途中駅での停車時間によるもので、川村駅約3分、おかどめ幸福駅約3分、あさぎり駅約4分と長時間停車をします。これらの駅には、お楽しみが用意されているのです。
さらに、駅間でも通常列車よりゆっくりと走り、車窓の見どころがあればさらに減速をするといったサービスもあります。
今回と次回の2回にわたり、筆者が9月にこの「田園シンフォニー」に乗ってみた際のレポートをお届けします。
JR肥薩線の人吉駅で下車し、同駅舎の並びにある“くま鉄ゲストハウス「くまたび」”に行きます。ここは、平日に観光案内やグッズ販売とともに旅行商品の販売をしているところです。土休日は休店日ですが、「田園シンフォニー」の予約者受付も行っているため、同列車運転日の10~11時に開店しているのです。
「田園シンフォニー」に乗るには、指定席料金300円に加えて片道運賃690円が必要です。乗車券と指定席券は一緒に予約ができます。なお、往復する場合には、一日乗車券と指定席券がセットになった特製きっぷ1,500円(小人1,200円)があるので、このきっぷを予約しておくとお得で便利、さらに記念品にもなります。
“くま鉄ゲストハウス「くまたび」”を出ると、すぐ脇に跨線橋があります。出発時間までにこの跨線橋を渡って、人吉温泉駅に行きます。…といっても、もともと国鉄湯前線として使っていた湯前駅5番ホームですので、肥薩線を越えてすぐのところです。
指定席券には「白号車」と書いてあります。…?と思ったものの、ホームに行けば判りました。青い車両と白い車両が連結されているのです。その湯前側に連結されている白い車両が、指定された白号車というわけです。
さっそく乗ると、車内は木製品を多用したウッディな内装となっています。地元産品を並べた棚があるところも含めて、JR九州をはじめとして多くの鉄道で活躍されているデザイナー・水戸岡氏のデザインだということがひと目で分かります。
この白号車は、4人向かい合わせのボックスシートと、ドア横のロングシートがありますが、どちらにもテーブルが用意されています。一方、青い車体の「夏」号車には2人用クロスシートや窓に向かって座る形のカウンター席があるものの、テーブルが全席にあるわけではありません。どうやら、予約内容によって使い分けているようです。
ちなみに、くま川鉄道には現在5両が在籍していて、残る3両は、ベージュ色の「春」、赤色の「秋」、茶色の「冬」となっています。この全車が「田園シンフォニー」に使用されますが、他の定期列車にも使用されています。このような車両を定期列車で使用というのは、贅沢ですよね。
定刻の11時11分に人吉温泉駅を発車した「田園シンフォニー」は、しばらくJR肥薩線を走ったうえで、自社線に入ります。すぐに最初の駅となる相良藩願成寺駅に着き、再び発車するとアテンダントさんから“木々のトンネル”をくぐるとの案内がありました。
どれどれと運転席横へ見に行くと、なるほど、木々の鬱蒼とした繁みのなかに、列車が通る分だけ枝葉が切り取られていて、まさにトンネル状になっています。くま川鉄道は比較的平坦な人吉盆地を走るためトンネルがなく、この木々のトンネルが唯一のトンネルだそうです。
人吉温泉駅から2駅目となる川村に近付くと、アテンダントさんから駅ホームでのおもてなしの案内がありました。再び運転席横に行ってみると、なるほど間もなく到着するホームには、にこやかに手を振っている方々がおいでになります。本日のおもてなし隊です。
そろいの赤い前掛けが、折からの陽射しを浴びて鮮やかに輝いて見えます。
すぐ後ろにカッパの像が写っていますが、近くを流れる球磨川の支流・川辺川にカッパ伝説があることに由来します。村内にはカッパの墓があり、相良村のゆるキャラは「サガラッパ」というそうです。
川村駅のホームに降りると、おもてなし隊のみなさんがお茶を振る舞って下さいます。地元・相良村産の茶葉を使ったお茶とのことです。まだ残暑厳しい9月だったので、冷えたお茶でしたが、それにも関わらず濃厚で実においしい一杯でした。
このおもてなしは、「田園シンフォニー」1便につき1-2か所で行っているそうですが、この川村駅で行われることが多いようです。それだけ、川村駅のおもてなし隊「川村駅を勝手に守る会」の活動が活発ということでしょう。
そのおもてなし隊の中でも目を引くのが、御年94歳の名誉駅長・下田幸(みゆき)さん。
2014年3月の「田園シンフォニー」運行開始に際して、沿線の方々に協力を呼びかけた際に、快く引きうけられたといいいます。ちなみに、ホームで出迎えて下さった方々は「川村駅を勝手に守る会」の会員でつくる「おもてなしべっぴん隊」の方々だそうです。なるほど、べっぴんさんです。
下田名誉駅長が被っていられる帽子は、2015年12月28日に名誉駅長を任命された際に、くま川鉄道から贈呈されたものだそうです。また、そのお手元にある縫い物は、下田名誉駅長お手製のもので、お茶などの名産品とともにお土産として買うことができます。
「田園シンフォニー」の乗客たちとは、停車時間中のほんの一瞬の出会いですが、笑顔を振りまいたり記念写真に一緒に写ったりと大活躍でした。まだまだお元気な様子ですので、今後も長らくご活躍の姿をみられることでしょう。
川村駅でのおもてなしを楽しんで、再び発車した「田園シンフォニー」は、車内のざわめきが収まる間もなく徐行をはじめます。そこは長い鉄橋上ですが、車窓左手をみると、川の上流が二手に分かれています。右が球磨川の本流で、左はその支流となる川辺川です。この川辺川沿いに、前述のカッパ伝説があるのです。
球磨川というと、日本三大急流と球磨焼酎しか頭に浮かばない筆者にとって、このように車窓解説をしてもらっての汽車旅は、ただ乗っているだけでは知り得なかったことを数多く習得できる貴重な場でした。
この先でも、アテンダントさんは、車窓ガイドを適宜してくださいます。
ところで、これまで走っていた球磨川の右岸は相良村でしたが、鉄橋を渡った左岸は錦町(にしきまち)となります。肥後西村(にしのむら)・一武(いちぶ)・木上(きのえ)と、やや難読な3駅が錦町です。ちなみに、くま川鉄道には、人吉温泉駅を入れて14駅があります。
その錦町で最初となる肥後西村駅には、錦町のマスコットキャラクター「錦太郎」くんが来てくれていました。「錦太郎」と書いて「きんたろう」と読むそうです。
錦町は剣豪とフルーツの里を謳っているため、剣道着に竹刀を持ち、梨・桃・茶の葉で飾った頭には、球磨川の流れを表した髪の毛があります。ただ、この日は竹刀を持っていないようでした。両手を振るためには、致し方ないですよね。
このようなおもてなしを受けて、「田園シンフォニー」は進みます。
[続く]
掲載日:2016年10月07日
●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。