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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

観光列車「田園シンフォニー」が奏でるふれあい 2/2 [No.H209]

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おかどめ幸福駅でも小休止。社殿風の駅舎入り口には、しめ縄と幸福の鈴があり、幸せを願って乗客達は鈴を鳴らす。
川村駅から15分で到着するのが、おかどめ幸福駅です。
全国で唯一「幸福」の文字が入った駅名です。
駅からすぐの高台に鎮座する岡留熊野座神社が、幸福神社と呼ばれていることからつけられた駅名です。実際、同神社の鳥居をみると、そのひとつの扁額に「幸福神社」と記されています。
同駅でも「田園シンフォニー」は3分停車となり、乗客達は思い思いに駅舎と駅前の散策を楽しみます。その駅舎入り口にはしめ縄が飾られ、鈴も付いています。社殿も賽銭箱もないので、単に鈴を鳴らすだけとなりますが、なんとなく手を合わせて拝みたくなるのは日本人の習性でしょうか。
駅付近にある神社に関わる駅や、その神社を模した社殿風の駅舎は多くあります。しかし、鈴をつけてある神社は他で見た記憶がありません。よく見ると、鈴を鳴らすための鈴緒の下の方に通してある木製の六角には、「幸福祈願」「奉納」とともに「くま川鉄道株式会社 平成二十一年六月吉日」の文字も刻まれています。くま川鉄道としての力の入れようが感じられますね。
駅舎の脇には絵馬掛があるほか、隣の売店では幸福きっぷなどを販売しています。


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左:タブレット交換の様子、右:出発時刻になるとアテンダントさんが鈴を振って教えて下さる。皆さん、にこやかだ。
おかどめ幸福駅を楽しみ、再び乗車すると約3分で、くま川鉄道の中核駅となるあさぎり駅に到着します。すでに対向列車は到着していて、列車が停まるとすぐにタブレットとスタフの交換をします。
タブレットとスタフは、いずれも単線区間における安全設備です。定められた区間内に、一つの列車しか走らないようにすることで、列車同士の衝突を起こさない仕組みで、その区間を「閉塞(へいそく)」と呼んでいます。
このタブレットやスタフをもっていると、決められた区間を走ることができるのです。くま川鉄道の場合、あさぎり駅を境にして、人吉温泉側がタブレット閉塞、湯前側がスタフ閉塞となっているため、両方向からきた列車がそれぞれのタブレットとスタフを、この駅で交換するわけです。

あさぎり駅では、4分停車します。その間に、窓口で売っているおかどめ幸福駅の入場券を買ったり、国鉄時代の記憶を残す長いホームを散策したりできます。
つい、あちこちを見歩いて長居してしまいそうですが、そこは心配ありません。発車時刻が近付くと、アテンダントさんが鈴を振って教えて下さるのです。でも、鈴の音が聞こえないほど遠くへは行かないようにしたいですよね。


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オプションの「駅弁当プランB」を車内テーブル上に広げてみた。左下は1日フリー乗車券付指定席券。
田園シンフォニーは、人吉温泉駅を11時11分に発車して、湯前着が12時05分です。田園風景を楽しみながら、少し早い食事を楽しみたい… という欲望が当然のように湧いてきます。
そんな人にお勧めなのが、「駅弁当プラン」です。
A,Bの2プランがあり、Aプランは有名な人吉駅の「栗めし弁当」。Bプランは、同じ人吉駅弁やまぐち製の「くまモンかしわめし弁当」です。どちらも昔懐かしいティーバッグのお茶がついてきます。また、食後のホットコーヒー引換券もあります。さらに、グッズとして、田園シンフォニーオリジナルクリアファイルとAプランにはハート型ケースに入った「幸福へのきっぷ」、Bプランは「くまモンの幸福へのきっぷ」もつきます。
このトータルで2,000円です。駅弁は1,100円、クリアファイルは500円、きっぷは240円ですので、これだけで1,840円になります。さらにお茶とコーヒーがついてくるので、割安というわけです。そのうえ、一つずつ購入する手間が省けるのも、不精者には嬉しいものです。
ちなみに、ホットコーヒーは引換券方式ですので、食後の都合の良いときにアテンダントさんにお願いすると、その場で注いで下さるのも嬉しいサービスです。
A,B2プランありますが、Bプランの「くまモンかしわめし弁当」は数量限定生産だそうで、なかなか入手できないとか。それだけに、予約する駅弁当プランが間違いないようです。味は、定評ある人吉駅弁やまぐち製だけに、実に美味しかったです。弁当箱だけでなく、お手ふきの袋にもくまモンがいるので、くまモンファンには外せない一品かもしれませんね。

なお、ここまでに記してきたように、「田園シンフォニー」は途中でイベントもあるため、うっかりすると乗車中に食べきれないこともありそうです。そのような場合には、湯前到着後に車両内で食べられます。
「田園シンフォニー」は湯前駅到着後、折り返し44分後の普通列車になるのですが、それまでの間、ホームに留置して車内開放してくれているのです。その時間を使って、ゆっくりと食べられるというわけです。


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列車名のとおり、車窓には田園風景が広がる。車内にも、BGMとしてベートーヴェンの田園交響曲が静かに流れている。
ところで「田園シンフォニー」って、ちょっと変わった列車名ですよね。
でも、くま川鉄道に乗ったことがある方でしたら、なんとなく予想が付くことでしょう。なにせ、車窓は延々と田園風景なのですから。それも、球磨川に沿ってできた里山風景ですので、日本の原風景ともいえるものです。
この景色から、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を思い浮かべるのも当然…と思わせるもので、列車名の由来として頷けます。ちなみに、車内には音量を絞ったBGMとして、同曲が流れています。

湯前駅に着いてからは、前述のとおり折り返し時間を利用して食事をするのも良いでしょう。また、歴史ある町ですので、街歩きを楽しんだり、レンタサイクルを利用して街を楽しんだ後に温泉に行ったりということもできます。
帰路でどこかに途中下車してみたいということでしたら、多良木駅はいかがでしょう。駅の近くに、かつて寝台特急「はやぶさ」として活躍した客車を使った簡易宿泊施設「ブルートレインたらぎ」があります。宿泊利用はもちろんのこと、外観だけであれば日中でも見ることができます。
また、同施設の斜め向かい、多良木駅からは線路の反対側すぐのところに、「多良木町ふれあい交流センターえびすの湯」という日帰り入浴施設があります。温泉ではありませんが、さっぱりとしたいときに気軽に利用できます。
ちなみに多良木駅は、多良木町内にある恵比寿神社のおみくじがホームに置いてあるという珍しい駅です。運試しに1回100円でおみくじを引いてみるのはいかがでしょう。


掲載日:2016年10月14日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。