日本旅行 トップ > JR・新幹線+宿泊 > 鉄道の旅 > 汽車旅ひろば > ひろやすの汽車旅コラム 「本土最南端の始発・終着駅…枕崎駅」

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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

本土最南端の始発・終着駅…枕崎駅 [No.H220]

明けましておめでとうございます。
本年も金曜日公開を基本に、毎週、鉄道に関する様々な話題をご紹介して参ります。どうぞよろしくお願いします。

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「本土最南端の始発・終着駅」の案内が建つ枕崎駅。かつては100mほど先までレールがあった。
寒くなりましたね。
さすがに1月も半ばになると、本格的に寒くなります。
そこで、今回は暖かい南の地の話をしましょう。

日本最南端の駅がどこか、ご存じでしょうか。
沖縄のゆいレールにある赤嶺(あかみね)駅です。
ただし、2本のレール上を走る普通鉄道では、JR九州の指宿(いぶすき)枕崎線にある西大山(にしおおやま)駅となります。
赤嶺駅、西大山駅ともに、駅や駅前には「日本最南端の駅」「JR日本最南端の駅」などの案内が掲げられています。
ところが、ここ枕崎駅にも最南端があります。「本土最南端の始発・終着駅」です。
指宿枕崎線は、鹿児島中央駅から砂むし風呂で知られる温泉地・指宿を経て、前述の西大山駅で最南端となり、その後、薩摩半島の西側に回り込んで枕崎駅までを結ぶ、全線87. 8kmの盲腸線です。
日本最北端の稚内駅からは3099. 5kmもあります。ちなみに、2013年8月16日付で記した「日本最北端の線路は、駅を突き抜ける!? 」では、稚内駅に「枕崎駅より3,126. 1km」とある旨を記していて、距離が異なっています。これは稚内駅が九州新幹線開業前の距離を使用しているためと思われます。

閑話休題

鹿児島中央駅近くは通勤通学路線で、その後、指宿までは特急「指宿のたまて箱」が走り、指宿の次となる山川駅までなら日中でも1時間に1-2本の列車があります。
ところが山川~西大山~枕崎間は、1日わずか6往復しか列車が走らない閑散線区です。それも、通学時間に合わせた列車設定なので、日のある時間に走る列車は夏場でも4往復、陽の短いこの時期だとかろうじて3往復という、汽車旅にはなかなかハードルの高い線区です。
その終着となる枕崎駅は、今回紹介するように楽しさを感じさせる駅となっています。


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市民や枕崎市出身者から2,500万円の寄付金が集まって建った駅舎。駅前も同時に整備されている。
枕崎駅は、もともと薩摩半島の西側を縦走する鹿児島交通南薩線との接続駅でした。ところが、鹿児島交通が廃止され、駅を所有していた鹿児島交通がその土地を再開発したため、JR枕崎線は100メートルほど短くなりました。その際、JR九州は乗降用のホームこそ整備したものの、他に何もない、町中から外れたさみしい駅となってしまいました。
そこで、これではいけない、駅は町のシンボルでなければ…と市民が立ち上がり、2,500万円もの募金を集めることに成功したのです。

デザインを手がけたのは、えちごトキめき鉄道の観光列車「雪月花」や、土佐くろしお鉄道の中村駅待合室などのデザイナーである川西康之さん。鹿児島県建築士会南薩支部と協力して、市民の思いがこもったものとすることで、2013年度グッドデザイン賞をみごとに受賞しました。
駅舎に掲げられている「枕崎駅」の文字は、枕崎市出身で大相撲立行司36代木村庄之助を努めた山崎敏廣さんの書だということです。駅舎完成が2013年4月28日、36代木村庄之助の定年による退任が2013年5月場所だったため、まさに立行司の現役最晩年の揮毫となります。


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整備された駅前広場には、鹿児島県が浮かび上がってみえるトリックアートが施されている。
枕崎駅舎の傍らに、「トリックアート コチラからご覧下さい」という案内板があるので、その場で駅前広場をみると… おっとビックリ、駅前広場に描かれている鹿児島県の地図が、海から浮かんでいるように見えます。右の写真でも、その様子がわかると思います。
偏光メガネなどをかけることなく、図柄だけでこれほど立体的に見えるものかと驚き、しばらく見入ってしまいました。この地図には、鹿児島本線・日豊本線とともに指宿枕崎線が描かれ、終点の枕崎には燈台が描かれています。
枕崎駅舎と称していますが実際には待合室で、改札口も切符売り場もありません。建物内にはベンチと机があるだけですが、清掃の行き届いたベンチから見上げると、そこには山幸彦像があります。神武天皇の祖父にあたる方で、海幸・山幸伝説の主人公です。伝説の中で、海に出て最初に着いたのが枕崎だったということから、駅舎出入口の上部に取り付けたそうです。

枕崎駅は前述のとおり列車本数が少なく、鹿児島中央駅からだと所要2時間半強もかかるので、なかなか行けない…と思っている方も多いでしょう。そんな方は、往復どちらかで鹿児島交通のバスを利用するのがお勧めです。所要2時間弱で、日中でも1時間半に1本の割で走っています。運賃は1,240円で、JRの1,820円よりかなり安いのもポイントでしょう。
例えば、枕崎16:03発のJR普通列車を見送って17:00発の鹿児島交通のバスに乗った場合、鹿児島中央駅に到着するのは、列車が18:41、バスが18:52とわずか11分差です。
鹿児島交通の廃線跡がしっかり残っているなど、枕崎の街歩きも楽しいものです。
鹿児島へ行く機会があったら、ぜひ枕崎まで足を伸ばしてみて下さいね。

掲載日:2017年01月13日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。