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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
ユニーク路線・京急逗子線のみどころ [No.H228]
京急逗子線は、神奈川県の金沢八景駅で本線と分岐し、新逗子まで5. 9kmの短い路線です。日中は10分に1本の各駅停車が走りますが、すべてエアポート急行として羽田空港国内線ターミナル駅と新逗子駅を結んでいます。
と、ここまでだと比較的便利な郊外路線といった印象です。ところが、この路線には他では見られないみどころがあるのです。今回はそれらを紹介します。
まずは右側の写真です。
六浦(むつうら)駅という、金沢八景駅を出て逗子線最初の駅の付近を、近くの踏切から撮ったものです。左側が金沢八景方面への上り線、右側が新逗子方面の下り線ですが、上り線だけ三線軌条になっていることが分かります。しかも、駅のホーム付近だけ三線の内側レールが左右逆になっていますよね。
三線軌条というだけでも珍しい存在ですが、その内側レールが一部区間だけ左右逆になるのは、極めて珍しいものです。よくみると、左右が逆になる部分の左側に転轍器があります。この転轍器が動くことで、分岐器の先端にあたるトングレールが動いて、内側レールを使って走る車両が六浦駅のホームから十分に離れた場所を通過できるようになります。
でも、外側のレールを走る車両は、この転轍器が動作すると走れなくなるという変わった構造です。このように、通常の分岐器とは異なる構造の分岐器を、総称して特殊分岐器と呼んでいます。
この三線軌条は、外側が京急車両用の1435mm標準軌です。一方、特殊分岐器を使っている内側はJR線と同じ1067mm狭軌です。この仕組みがあるのは、金沢文庫駅の北西すぐのところに、JR東日本の車両製造会社となった総合車両製作所があり、ここで新製された車両をJR逗子駅まで輸送するためです。総合車両製作所は以前、東急車輌製造でしたが、2012年にJR東日本が買収して100%出資子会社としています。
このような経緯もあって、製造するのはJR用車両だけではなく、もちろん京急の車両も手がけています。ただし、京急車の場合は工場出荷後すぐに納品できるのに対して、京急以外の車両はJRも含めてJR線を介して発注事業者まで運んでいく必要があるため、このような三線軌条としているわけです。しかも、新車を納品しようとしたとき、万一途中でホームに接触したら大変です。そのため、この六浦駅の部分では、特殊分岐器を使ってホームから離れた側を通過するようにしているというわけです。
左写真は、六浦駅の次となる神武寺駅です。
金沢八景駅からは4. 1kmのところで、前述した三線軌条はこの駅の手前で終わって、1067mm軌間は独立した線路となります。この写真に写っているのが、その京急線から分岐したばかりの1067mm線です。上り線ホームの端部で写しているのですが、京急線は背後を走っています。
ところで、何か変ですよね。右下に「注意」と大きく朱書きされています。その下を読むと、
「これより左側、米海軍横須賀基地につき…」
となっています。
えっ? と思って、線路の先の建物をみると、上部に次の様に記されています。
CFAY IKEGO DETACHMENT
JINMUJI STATION
上の行は、在日米海軍横須賀基地司令部(Commander Fleet Activities Yokosuka)管理下の「池子住宅地区及び海軍補助施設」ということを意味しているようです。
つまり、米軍関係者専用の改札口で、一般の者は神武寺駅構内から眺めるのは自由ですが、この建物から先には行けないようになっています。
神武寺駅で京急線から分かれた1067mm線は、しばらく京急線に沿っていますが、京急線ともども米軍基地内の扱いになっているようで、ほぼ近づけません。京急線は次第に勾配を上り、やがてJR横須賀線をオーバークロスしますが、1067mm線は150mほどの短いトンネルを抜けたところで右にカーブして、JR横須賀線と合流します。
そのトンネル出口から横須賀線に合流するまでのわずかな区間は、公道から見ることができます。そこにはヘロヘロのレールが敷かれ、あたりの開発とは一線を画した、時間の流れが止まっているかのような空間となっています。
その様子に、なんとなく郷愁を感じていると、線路の先を横須賀線の電車が駆け抜けていきました。
ここまでみてきた、総合車両製作所から神武寺駅手前までの京急逗子線上り線を使う区間は、深夜に電車が走らなくなってから線路閉鎖という手続きをしたうえで、新製車両を輸送します。
その車両は、神武寺駅とトンネルの間に留置されるようで、陽が上ったあとに、JR側から回送機関車が迎えに行きます。ですから、このヘロヘロのレールのあたりでは、明るい時間帯に新製車がJRの機関車に牽引されて進んでいくところが見られるそうです。もちろん毎日ではないので、その様子を見るためには、総合車両製作所からの出場予定を調べる必要があります。
筆者はその様子を見たことがありませんが、いつかタイミングが合ったら見てみたいなと思う光景でした。
掲載日:2017年03月10日
と、ここまでだと比較的便利な郊外路線といった印象です。ところが、この路線には他では見られないみどころがあるのです。今回はそれらを紹介します。
まずは右側の写真です。
六浦(むつうら)駅という、金沢八景駅を出て逗子線最初の駅の付近を、近くの踏切から撮ったものです。左側が金沢八景方面への上り線、右側が新逗子方面の下り線ですが、上り線だけ三線軌条になっていることが分かります。しかも、駅のホーム付近だけ三線の内側レールが左右逆になっていますよね。
三線軌条というだけでも珍しい存在ですが、その内側レールが一部区間だけ左右逆になるのは、極めて珍しいものです。よくみると、左右が逆になる部分の左側に転轍器があります。この転轍器が動くことで、分岐器の先端にあたるトングレールが動いて、内側レールを使って走る車両が六浦駅のホームから十分に離れた場所を通過できるようになります。
でも、外側のレールを走る車両は、この転轍器が動作すると走れなくなるという変わった構造です。このように、通常の分岐器とは異なる構造の分岐器を、総称して特殊分岐器と呼んでいます。
この三線軌条は、外側が京急車両用の1435mm標準軌です。一方、特殊分岐器を使っている内側はJR線と同じ1067mm狭軌です。この仕組みがあるのは、金沢文庫駅の北西すぐのところに、JR東日本の車両製造会社となった総合車両製作所があり、ここで新製された車両をJR逗子駅まで輸送するためです。総合車両製作所は以前、東急車輌製造でしたが、2012年にJR東日本が買収して100%出資子会社としています。
このような経緯もあって、製造するのはJR用車両だけではなく、もちろん京急の車両も手がけています。ただし、京急車の場合は工場出荷後すぐに納品できるのに対して、京急以外の車両はJRも含めてJR線を介して発注事業者まで運んでいく必要があるため、このような三線軌条としているわけです。しかも、新車を納品しようとしたとき、万一途中でホームに接触したら大変です。そのため、この六浦駅の部分では、特殊分岐器を使ってホームから離れた側を通過するようにしているというわけです。
左写真は、六浦駅の次となる神武寺駅です。
金沢八景駅からは4. 1kmのところで、前述した三線軌条はこの駅の手前で終わって、1067mm軌間は独立した線路となります。この写真に写っているのが、その京急線から分岐したばかりの1067mm線です。上り線ホームの端部で写しているのですが、京急線は背後を走っています。
ところで、何か変ですよね。右下に「注意」と大きく朱書きされています。その下を読むと、
「これより左側、米海軍横須賀基地につき…」
となっています。
えっ? と思って、線路の先の建物をみると、上部に次の様に記されています。
CFAY IKEGO DETACHMENT
JINMUJI STATION
上の行は、在日米海軍横須賀基地司令部(Commander Fleet Activities Yokosuka)管理下の「池子住宅地区及び海軍補助施設」ということを意味しているようです。
つまり、米軍関係者専用の改札口で、一般の者は神武寺駅構内から眺めるのは自由ですが、この建物から先には行けないようになっています。
神武寺駅で京急線から分かれた1067mm線は、しばらく京急線に沿っていますが、京急線ともども米軍基地内の扱いになっているようで、ほぼ近づけません。京急線は次第に勾配を上り、やがてJR横須賀線をオーバークロスしますが、1067mm線は150mほどの短いトンネルを抜けたところで右にカーブして、JR横須賀線と合流します。
そのトンネル出口から横須賀線に合流するまでのわずかな区間は、公道から見ることができます。そこにはヘロヘロのレールが敷かれ、あたりの開発とは一線を画した、時間の流れが止まっているかのような空間となっています。
その様子に、なんとなく郷愁を感じていると、線路の先を横須賀線の電車が駆け抜けていきました。
ここまでみてきた、総合車両製作所から神武寺駅手前までの京急逗子線上り線を使う区間は、深夜に電車が走らなくなってから線路閉鎖という手続きをしたうえで、新製車両を輸送します。
その車両は、神武寺駅とトンネルの間に留置されるようで、陽が上ったあとに、JR側から回送機関車が迎えに行きます。ですから、このヘロヘロのレールのあたりでは、明るい時間帯に新製車がJRの機関車に牽引されて進んでいくところが見られるそうです。もちろん毎日ではないので、その様子を見るためには、総合車両製作所からの出場予定を調べる必要があります。
筆者はその様子を見たことがありませんが、いつかタイミングが合ったら見てみたいなと思う光景でした。
掲載日:2017年03月10日
●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。