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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

鉄旅オブザイヤー受賞の「ながまれ海峡号」の魅力4 [No.H245]

日本旅行が運行する道南いさりび鉄道の観光列車「ながまれ海峡号」の4回目であり、最終回です。
前回までに、函館を発車してから木古内までの往路の様子を紹介しました。
今回は、メインイベントとなる復路です。

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「ながまれ海峡号」に戻ると、自席に「どうなんパスタセット」が用意されている。右上は「ぱくぱく塩パン」
木古内駅前の「道の駅みそぎの郷きこない」で小休止するとともに、お土産物を買うと、「ながまれ海峡号」の乗客は三々五々と自席に戻ります。すると、テーブル上には帰路の一食目、往路最初の「函館海鮮スイーツ丼」から数えると二食目が用意されています。
「道の駅みそぎの郷きこない」に併設され、山形県鶴岡市で有名レストランを開設している奥田政行シェフが監修するイタリアンレストラン「どうなんde's Ocuda Spirit」製のパスタセットです。本格パスタは旬な食材を使用するため、毎回内容が変わるそうですが、この日のメニューは次の通りでした。
   ・季節のサラダ
   ・マッシュルームのクリームスープ
   ・ペンネアラビアータ
   ・ぱくぱく塩パン

流石に味は本格的で、満足します。
列車内ということで食器類はプラスチック製ですが、これは致し方ないでしょう。
写真の右上にあるのは「ぱくぱく塩パン」で、函館発車時に注文をすると「道の駅みそぎの郷きこない」で受け取ることができる「コッぺん道土(こっぺんどっと)」というパン屋さん製です。人気の塩パンですが、通常18時閉店の道の駅だけに、17時45分木古内駅着の「ながまれ海峡号」の乗客は、予約しないと入手できないのです。でも、このように一つだけは食べることができます。ただし、一口サイズなので、もの足らないというのが正直な感想でした。


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ながまれ海峡号のハイライトと言える茂辺地駅でのバーベキュー。地元食材を焼いて、その場で折り詰めにしてくれる。
復路の木古内発は18時22分です。
発車するころから食べ始めた「どうなんパスタセット」を食べ終え、満足感に浸っている18時59分、茂辺地駅に到着します。
この駅では20分停車するのですが、添乗員さんからは、列車を降りて跨線橋を渡った上りホームに向かうよう案内されます。

食後にゆっくりしていたところなのに、ちょっと面倒とは思うものの、駅舎に隣接するホーム上にテントを張ってバーベキューをしている人達をみると興味が湧きます。
炭焼きの網の上には、ツブ貝とほっき貝、それに包まれたものが並んでいます。乗客達が近付くや、それらを手際よく折に詰めて渡して下さいます。その焼きたての食材が入った折を受け取って、自席に戻り、食べるというわけです。
「いさりび焼き」と名付けられたこのバーベキューを焼いているのは、JA新はこだてと上磯漁協の方々。これもまた、地元産の旬な食材にこだわるため、毎回提供される内容が異なっているそうです。

発車時のスイーツ海鮮丼が函館市、帰路最初の「どうなんパスタセット」は木古内町、バーベキュー実演による「いさりび焼き」は北斗市と、沿線市町それぞれの味を楽しめるようになっています。


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地元食材が詰まった折り詰め。予め作り置きされたものではなく、バーベキューで焼きたてという点もうれしい。
この日は、次の内容となっていました。
   ・ほっき貝
   ・ツブ貝
   ・北斗おぐに牧場「和牛」とグリーン
      アスパラの焼きもの
   ・あったか おイモ
   ・ふっくりんこ 俵おにぎり・茂辺地産
      ワカメ入
   ・茂辺地産ひじき入り玉子焼き

先のバーベーキューのところで「包まれたもの」と記したのは、地元産の和牛とグリーンアスパラの焼きものでした。
「あったか おイモ」はじゃがいもの有名ブランドであるメークインですが、道南いさりび鉄道の沿線から少し北にある厚沢部町が発祥の地で、同地産のものを提供して下さっているそうです。
焼きたての旬な食材ばかりですから、おいしくて当然です。手に手に折を持った乗客は、自席に戻るとすぐに食べ始めました。うまいっ!
「ふっくりんこ」は、道南で獲れるお米の銘柄です。冷めても美味しいということで、おにぎりや弁当に最適とか。まさに打って付けの銘柄です。
この日は、大きな甘いイチゴもついています。
JA新はこだてが販売する、ふっくりんこを使った玄米緑茶もついてきました。
まさに、地元産品が目白押しの食事です。


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暮れなずむ函館湾に浮かぶ函館山。車窓を楽しみやすいよう、しばしの消灯タイムも設けられている。
19時19分に発車した「ながまれ海峡号」では、乗客が思い思いに折り詰めを楽しんでいます。
夏の陽が長い時期でも、この時刻になるとさすがに夕暮れです。他の季節なら車窓は真っ暗でしょう。でも、函館山は夜闇に浮かびます。そこで、食事が進んだ頃を見計らって、消灯タイムとなります。お腹が充たされた満足感で眺める函館湾と函館山は、なんとも幻想的で思い出に残るものでした。

やがて線路は内陸部を走るようになり、再び車内は明るくなります。
すでに乗客は折り詰めを食べ終えていますが、この列車で三食目となるだけに、食の細い方だと食べきれません。そこで、添乗員さんは持ち帰り用のパックも用意して下さっていて、パックを渡すとともにゴミを回収してくださいます。
気がつくと19時47分の函館駅到着までわずかの時間となっていました。

15時50分の発車から約4時間という、食をテーマにした観光列車としては異例の長旅でした。しかし、三度にわたる食べ物の提供に、上磯駅での立ち売り販売、函館湾に浮かぶ函館山の景色、折返しとなる木古内駅での道の駅立ち寄りなど、飽きさせない工夫が随所にされた「ながまれ海峡号」の旅は、まったく時間の長さを感じませんでした。
2時間程度の乗車が多い観光列車ですが、本格派を自称するのであれば、4時間程度の時間をかけて、その間も乗客を飽きさせない工夫があってしかるべきと感じました。
その「ながまれ海峡号」は、『日本一貧乏な観光列車』を標榜しています。


掲載日:2017年07月14日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。