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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

超個性派車両が古都を走る…叡山電鉄「ひえい」 [No.H286]

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正面の縦長な楕円が超個性的な観光列車「ひえい」。写真右上に頂上が見えているのが比叡山。
今春、なんとも個性的な車両が登場しました。
右の写真のとおり、常識を越えたデザインの車両で、正面の金色の楕円の輪がなんとも印象的です。この車両は、京都市街地の北東部にそびえる比叡山(ひえいざん)への観光用車両「ひえい」です。「えいでん」の愛称がある叡山電鉄が、原則として火曜日を除く毎日定期列車で走らせています。
この特徴的な金色の楕円は、同電鉄がもつ2路線の各終着点にある「比叡山」と「鞍馬山」が発するダイナミックな「気」の循環を、2つの山頂を極とする楕円ループになぞらえたものだそうです。
比叡山には天台宗総本山の延暦寺があり、鞍馬山には鞍馬天狗の伝説や牛若丸時代の源義経が身を寄せていたという鞍馬寺総本山があります。いずれも仏教の寺院ですので、金色の輪はイメージとしても合いますよね。
「ひえい」は700系の改造車ですが、この金色の輪をつけるために、わざわざ運転席を進行方向左端からやや中央に移動させています。立体的な輪により視界が遮られることを避けるためです。
楕円の中心部には「HIEI」のロゴとともに放射状の光を放つ円が描かれていますが、これは、大地から放出される気のパワーと灯火を抽象化しているそうです。
また、車体側面下部には前後方向の線が5本描かれ、車体中央で一つにまとまっていますが、これは比叡山の山霧をイメージしたものだそうです。


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側面の楕円の窓も印象的。車内の座席の頭載せは、その楕円と楕円の間に来るようデザインされている。
個性的なのは外観だけではありません。
側面の窓もすべて楕円になっているのですが、その楕円の窓と窓の間に一人分の座席を配しています。バケット状にして座り心地をよくした座席ですが、その頭の部分は楕円の窓と窓の間にくるようにデザインされています。
一般的なロングシート車は、シートに座っても頭載せがありませんよね。「ひえい」は、その点を考慮したデザインにしているのです。実際に座ってみると、座面がバケット形状となっているため体がその中央に固定されます。その状態で少し上体を反らすと、頭が楕円窓の間にある頭載せにつくようになっていました。この配慮は、実に好印象です。
さらに暖色系のLEDダウンライトは落ち着いた色合いで、歴史ある寺院への足として相応しいものとなっています。
運転時間は叡山電鉄のホームページに『叡山電車「ひえい」』という大きなバナーがあるので、これをクリックすると判ります。平日用と土休日用がありますが、土休日は運行開始が9時22分出町柳発と遅いだけで、どちらも夕刻まで叡山本線を平日は40分毎、土休日は45分毎にピストン運行しています。


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比叡山の西麓にある終点・八瀬比叡山口駅は、大正14(1925)年の開業時に建てられた駅舎がそのまま使われている。
叡山電鉄は、京阪電鉄と出町柳(でまちやなぎ)駅で接続しています。
ただし、京阪電鉄は地下駅なのに対して、叡山電鉄は地上駅ですので、乗換にはやや時間がかかります。
出町柳駅から終点となる八瀬(やせ)比叡山口駅までの叡山本線は5. 6kmで、所要13-14分です。鞍馬行と共用している出町柳~宝ヶ池間3. 8kmは町中を平坦な路線で進んでいきます。ところが、宝ヶ池駅を出て鞍馬線と分かれると、一転して急勾配になり、すぐに緑に覆われた路線に変化します。
そのまま川に沿った緑豊かな中を登っていくと、やがて終点の八瀬比叡山口駅です。
同駅は大正14(1925)年に開業していますが、その当時からそのまま残る駅舎はなかなか風格があります。頭端式の行き止まりホームも、終着駅の雰囲気を醸し出していてなかなか味があります。
この駅は比叡山の西麓に位置していて、少し歩くとケーブルカーの駅があります。比ケーブルカーに乗り、比叡山の中腹でロープウェイに乗り換えると、比叡山の山頂に到達します。
山上では延暦寺までのシャトルバスが運行されていて、誰でも気軽に参拝できるようになっています。乗り継ぐ汽車旅が楽しめるところと言えましょうか。

参拝後は来た道を戻っても良いのですけど、折角ですから滋賀県側に下山することも検討してみましょう。山上のケーブル延暦寺駅から坂本ケーブルでケーブル坂本駅まで降りると、バス接続で京阪電鉄石山坂本線の坂本比叡山口駅やJR湖西線の比叡山坂本駅にでられます。
この比叡山越えをするケーブルカーとロープウェイは、それぞれに特徴があり、これらに乗るだけでも楽しいものですので、またの機会に紹介したく思っています。


掲載日:2018年05月25日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。