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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

BRTってなに?さまざまなBRTを知ろう [No.H003]

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専用高架橋を走る名古屋ガイドウェイバス。法規上は路面電車だが、軌道線より簡易で道路なみの構造物であることがわかる。
ここ最近、新聞やTVニュースで"BRT"という単語がよく出てきます。特に話題になったのは、東日本大震災の影響で不通状態が続く宮城県の気仙沼線で、JR東日本がBRT方式で運転を再開したニュースでしょう。8月20日に同線の陸前階上〜最知間2.1kmを、BRT方式によりバスでの運行をはじめたというものです。

このケースでは、線路を舗装してバス専用道にしました。そのうえで、駅付近で並行する国道45号線に合流する道を造っています。この報道で初めてBRTを知った方は、これがBRTというものと認識されているものと思います。なにせ、つい最近までBRTという単語は、一般的に知られていなかったのですから、BRTは被災地対応の手段と思われている方もおいでかも知れませんね。でも、世界的にみると、導入事例は多くないものの、各地でさまざまな形で導入され続けているシステムなのです。

では、BRTってなんでしょう? マスコミの解説では、Bus Rapid Transit の略であり、バス高速輸送システムの意味だとされていますよね。そうなんです、BRTは線路とは必ずしも関係が無いバスのシステムなのです。例えば、愛知県には名古屋ガイドウェイバスという、バス前方左右につけた小さな案内輪でガイドされて走るバスがあります。専用高架道を案内輪でガイドされるので、運転手はハンドルから手を離して、アクセルとブレーキだけでバスを運転します。このガイドウェイバスについては、改めてこのコラムで取りあげたいと思っていますが、この名古屋ガイドウェイバスもBRTに分類されます。

同じく、名古屋市内で永らく使われている「基幹バス」というシステムがあり、これもBRTに分類されることがあります。「基幹バス」は、片側2車線以上の道路の中央1車線に色をつけて「基幹バスレーン」とします。ここは原則としてバスだけが走行して良いことにして、渋滞を尻目にバスが定時運転をするというものです。中央車線をバスが走るので、バス停も道路の真ん中に造る必要がありますが、これは路面電車の電停と同じですよね。実は、名古屋の「基幹バス」の場合、名古屋市電廃止後に道路渋滞が激しくなったため、市電のノウハウを応用してできたとも言われています。

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廃線跡を活用した「かしてつバス」。
道幅が広がっているで、バス同士がすれ違う。
遅延しても柔軟に対応できるのが強み。
一方、線路敷きを利用してのBRTも日本にあります。最近では、茨城県の鹿島鉄道が2007年3月末をもって廃止になったあと、廃線跡を舗装してバス専用道とした「かしてつバス」の例があります。JR常磐線の石岡駅から、霞ヶ浦の北を東西に結んでいた鉄道で、航空自衛隊百里基地への燃料輸送が廃止されたことで経営が苦しくなり、ついに廃線となりました。ところが、石岡駅のすぐ南を東西に横切る国道6号線は、この常磐線を横切る付近で国道355号線と合流するため、朝晩を中心に大渋滞となります。そこで、この交差点付近を立体交差している廃線跡をバス専用道にして、2010年8月30日に朝晩のラッシュ時でも定時運転ができるバスを走らせはじめたのです。廃線跡を利用したBRT区間は約5kmですが、その先には同年3月に開港したばかりの茨城空港があるので、空港バスもこのBRT区間を利用することで定時運行を行っています。

これ以外に、鉄道線として建設される途中で中止が決定した"未成線"をバス専用道に転用した奈良交通の五條西吉野線の例もあります。完成しなかった国鉄線が五新線と呼ばれていたため、いまも五新線を走るバスとして知られています。さらに日本各地に廃線跡を利用したバス専用道があり、これらもBRTに含まれると考えるのが一般的です。

一方、冒頭に記したJR気仙沼線は、今後BRT区間を拡大するとしていますし、同BRT開通により気仙沼から北に延びている大船渡線でも、BRT方式による早期運転再開を模索する動きが出てきたようです。また、新潟市内では今年2月に新潟駅から町の中心部を抜けて越後線の白山駅までの約4kmに連接バスを使用したBRTを再来年にも導入すると発表しています。さらに、8月には、三重県四日市市が同市内を走る近鉄内部・八王子線について、BRT方式での存続を近鉄と協議しているとの報道がありました。この報道内容はまだ流動的なようですが、これらをみても、従来の鉄道・軌道の"建設・存続・廃止"の議論に加えて、BRT方式も併せて検討するケースが全国的に増えていることが感じられます。

このように様々な方式があるBRTは、今後の日本の公共交通体系に一石を投じそうですね。注意深く、その進展を見守っていきたいところです。

掲載日:2012年09月07日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。