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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

95周年となった、日本初のケーブルカー [No.H053]

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近鉄生駒鋼索線は、日本唯一の複線ケーブルカー
右の線路が、95周年を迎えた日本初の鋼索線。
左は、輸送力増強用に造られた昭和元年開業の2号線


右の写真をみて、珍しい! と思われた方はおいででしょうか。右側の車両が犬の顔と形をしているのはたしかに珍しいですけど、そうではないところです…
ご覧の通り、これはケーブルカーです。ところが、線路が2本並行してありますよね。ふつう、ケーブルカーは単線で、上と下の車両が交換する中間地点だけ複線になっています。ところが、ここは日本で唯一の複線ケーブルカーです。単線並列の形ですので、中間地点はなんと複々線になっています。
これは、奈良県の生駒ケーブルです。正式には、近鉄生駒鋼索線といわれる、近鉄が運行するケーブルカーです。近鉄奈良線・けいはんな線の生駒駅前にある鳥居前駅から宝山寺駅までの0.9kmを結んでいます。到着した宝山寺駅からは、さらに生駒山上駅まで1.1kmのケーブルカーがあり、両線あわせて生駒鋼索線となっています。
ここは、1918(大正7)年8月29日に、日本で最初のケーブルカーとして開業しました。それから今年8月でちょうど95年経ちました。その最初の路線は、犬型の車両「ブル」が走っている宝山寺1号線です。同線のもう1両はネコ型の車両で「ミケ」と名づけられています。左側の宝山寺2号線は昭和元年に輸送力増強のために造られています。同線の車両は2両とも平成12年3月に「ゆめいこま」と名づけられて、写真の塗装となっていました。それが、開業95周年を記念して、今月21日から以前の塗装となり「すずらん号」「白樺号」となっています。
いまや2線とも同時に動かすことは基本的になく、通常は宝山寺1号線だけの運転です。同線の点検日には2号線を運転することで、運休をなくしています。

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生駒ケーブル名物の"ケーブルカーの踏切"
レール部分の溝よりも、ケーブル部分の方が大きい。
踏切作動時間よりも、ケーブル作動時間の方が長い


生駒ケーブルには、もう一つ珍しいものがあります。それが、踏切。日本の場合、都市部から踏切が減ったとはいえ、鉄道線に踏切は当たり前にあります。しかし、ケーブルカーの踏切は他に見られないものです。もちろん、山岳地帯を走るケースが多く、交差する道路がないケースもありますが、大抵のところは交差する道を線路の下に潜らせています。というのも、ケーブルカーは文字どおりケーブルで引っ張って車両を上下させるシステムですから、2本のレールの間にケーブルがあるのです。人の乗った重たい車両を上下させられるほど頑丈なケーブルが動いているのですから、万一足をとられでもしたら大けがになりかねません。また、自動車など輪がついた乗り物だと、輪がケーブルに当たる心配もあります。
ところが、この生駒ケーブルの複線区間は通勤に利用されているほど人里に位置しています。中間付近まではなだらかな斜面を登っていることもあり、生活道路が線路の両側にあるので、踏切を造らざるをえなかったようです。それだけに、踏切には「ロープに注意してお渡り下さい」「この踏切には「みぞ・ロープ」があるので注意して下さい。」といった注意書きが目に付くところに掲げられています。実際、踏切道の溝はレール部分に続いてケーブル部分にもあるので、溝が多いものとなっています。

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自動車も通行できる、世にも珍しい鋼索線踏切。
これも、中間部で複々線になっているおかげ。
急傾斜なので、車も傾きながら踏切を渡る。
それでありながらも、3つある踏切のうち一番上に位置する鳥居前第三号踏切は、自動車も利用できてしまいます。なんとも大胆な踏切ですが、ここは鋼索線のちょうど中間に位置しているため、複々線となっているところです。そのため、各線路内のケーブルは1本分だけとなっています。複線区間だと上下の車両が引っ張られるケーブル計2本分の溝が必要なので自動車が通ることは無理です。しかし、1本分であれば、タイヤが溝に落ちるほどの幅にならないため、踏切道の高さをケーブル面より少し高くすることで安全に渡ることができるという次第です。
…と、ごちゃごちゃ理屈を並べているより、百聞は一見にしかず。ぜひ、奈良や大阪に行かれた際には、寄ってみて下さい。みていて面白いですよ。



掲載日:2013年08月30日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。