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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

静態保存蒸気機関車が"走る"! 東京都大田区 [No.H068]

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一見、きれいに保存されている単なる静態保存機だ。
でも、手前の黒いボックスが、ちょっと邪魔。
C57 66は、C57形でも人気がある、煙突の長い一次形。


公園でよく見かける、静態保存されている蒸気機関車が"走る"って、そんな馬鹿な…と思われることでしょう。でも、東京都大田区にある入新井西公園に保存されている、このC57 66は、本当に毎日走っています。もっとも、公園の柵に囲われたところにあるので、走るものの動くことはありせん…
というのも、この機関車のピストンには圧縮空気が送られるようになっているのです。その圧縮空気を使って動輪を回しています。その動輪は、ローラーの上に載せることで動かないようになっています。スポーツジムのランニングマシーン上で走っている感じといえば、判りやすいでしょうか。ただし、ランニングマシンと違ってローラーが動力をもって動くわけではなく、動輪の動きを受けて回転しています。
その圧縮空気を作るコンプレッサーが入っているのが、写真でちょっと邪魔に感じる、手前の黒いボックスです。単に邪魔くさく置いてあるわけではなく、必要なので設置してあるわけですね。



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1750mmの大動輪が回転すると、さすがに迫力がある。
もちろん、ロッド類も一緒に動く。
※画像をクリックし、拡大してご覧下さい。
この蒸気機関車が"走る"のは、平日の11時と15時の2回、土曜日は11時,14時,15時の3回、休日は10時,11時,14時,15時の4回です。時間になり係の方がスイッチを入れると、大人の男性の背丈ほどもある1750mmの大動輪がゆっくりと回転をはじめます。ボイラーに火が入っているわけではないのでドラフト音は聞こえませんが、やはり迫力があります。ピストンからの力で動輪が回っているので、蒸気で動くときと全く同じ条件です。それだけに、ピストンの前後動をいかにして動輪の回転力にしているかを、目の当たりに学ぶことができます。また、線路際では近づけないような至近距離でじっくりと観察できるのも、静態保存機の利点でしょう。でも、近付きすぎると危険ですので、適度に離れて楽しみましょう。
画像を見ていただくとわかるように、先従輪はレールに載っていますが、動輪のところはレールが無く、前後のローラーでその重量を受け止めています。現役時代の蒸気機関車では、よく返りクランクあたりからカランカランという金属が接触する音が聞こえたものです。しかし、この C57 66は整備が行き届いているためでしょう、実に静かに回転します。


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公園脇には、このような案内板が計4枚設置されている
「機関車発車時刻表」との表現がユニーク。
1分間に約6回転なので、時速約2キロの超低速走行だ。
C57 66の近くには、4枚の案内板があります。C57 66についての説明が2枚、前述した圧縮空気によって動輪を回しているとの説明書きが1枚、そして、右の画像です。この一番上には、「機関車発車時刻表」と記してあります。前述した動輪が回転する時間ですけど、ユニークな表現ですよね。次に、できるだけ長く使い続けるために、1分間に約6回転というゆっくりとしたスピードで回しているとの注意書きがあります。そこで、この回転スピードで走る速度を計算してみます。動輪直径1750mm×円周率3.14×6回転/分×60分=1,978,200mm/時=1.987km/時と計算できるわけです。時速が約2キロというのは、超がつく低速度ですね。蒸気機関車はゆっくりと走るのが得意と聞きますが、この数字からもそのことが納得できます。
さて、この入新井西公園の場所ですが、京浜東北線の大森駅東口から線路沿いに蒲田方向へ約500m、歩いて10分もかかりません。京浜東北線や東海道本線に並行した場所に保存されていますが、線路際の木々が成長してしまい、電車の通過音は聞こえるものの電車そのものはほとんど見られません。それだけがちょっと残念な公園です。大田区が管理する公園ですから、もちろん無料です。一見の価値がありますよ。




掲載日:2013年12月13日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。