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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

受験シーズンに注目される駅…学門駅 [No.H073]

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紀州鉄道の学門駅には入場券がある
学びの門に入場する券を意味するから
受験シーズンになると注目される。
受験シーズンになると注目される駅に、紀州鉄道の学門(がくもん)駅があります。
学門駅の入場券が、学びの門に入場する券…つまり、合格祈願になるということです。
その学門駅はというと、ご覧のとおり、実に素朴な無人駅です。無人駅…つまり、ホームへ行くのに入場券がいるわけではないのですが、紀州鉄道では学門駅の入場券を販売しています。とはいえ、無人駅では販売できませんので、お隣の紀伊御坊(ごぼう)駅での販売です。
学門駅を下車すると、すぐのところに県立日高高校があります。同校は戦前、旧制中学校だったため、御坊臨港鉄道が昭和6年に開業すると同時に「中学校前」として開設されました。しかし、戦時中の1941(昭和16)年に不要不急の駅として廃止となりました。紀州鉄道と社名変更したあとの1979(昭和54年)になると、日高高校からの要望により「学門」駅として復活します。同校の門の前に駅があることから名づけられた駅名だそうです。日高高校を受験する方には、喉から手が出るほど欲しい入場券かも知れませんね。


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学門駅は、ホーム一面に線路一本という実に素朴な駅。
県立日高高校は、この左後ろに位置している。
JR接続の御坊駅まで1.5kmが、線内最大の駅間距離だ。

紀州鉄道は、JR和歌山駅から54.6kmの距離にある紀勢線御坊駅から分岐しています。終点の西御坊駅までの営業距離は、わずかに2.7km。途中に3駅があるだけの小鉄道です。ちなみに、2002(平成14)年に千葉県の芝山鉄道2.2kmが開業するまで、日本一営業距離が短い鉄道でした。
平均駅間距離は1kmを下回る0.675kmで、そのうち御坊駅~学門駅間が1.5kmです。つまり、残る3区間は1.2kmしかありません。その内訳は、学門~紀伊御坊0.3km、紀伊御坊~市役所前0.6km、市役所前~西御坊0.3kmです。このことから、御坊駅が町外れにできたため、御坊の中心市街地への足としてできた鉄道ということが想像できることと思います。同時に、水運が盛んだった日高川の河口までの輸送も担っていましたが、その需要は無くなり、西御坊駅~日高川駅間0.7kmが1989(平成元)年に廃止となっています。
紀勢線は和歌山方面から御坊駅に至る直前に、ほぼ直角に曲がっています。日高川の河口付近は川幅が広いため、鉄橋を架けるのを避けたためと思われますが、鉄道建設反対運動のために町外れに駅ができたとの言い伝えもあります。


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車両は2両が在籍するが、ともにもと北条鉄道車。
現在、日本で唯一営業運転している二軸車で、
その独特の揺れ具合はぜひ乗って楽しみたい。
紀州鉄道には気動車が2両在籍していますが、いずれも兵庫県の第三セクター鉄道である北条鉄道から譲り受けたものです。2000(平成12)年に入線したキテツ1はもとフラワ1985-2、2009(平成21)年に入線したキテツ2はもとフラワ1985-1です。ともに、1985(昭和55)年製のLE-CarIIと呼ばれる富士重工業製のレールバスで、前後に各1軸2輪があるだけの"二軸車"と呼ばれるタイプです。この二軸車を現役で営業運転しているのは、いまや紀州鉄道だけとなりました。同時期に製造された車両は、次々と大型なボギー車と呼ばれる、前後にボギー台車をつけた車両に置き換えられていったためです。
ボギー台車は、いまや鉄道車両の主流となった乗り心地の良いものです。それだけに、二軸車の乗り心地は味わうことが難しくなっています。そんな二軸台車の揺れを楽しむために、紀州鉄道を訪ねるのはいかがでしょう。お知り合いに受験生がいれば、学門駅の入場券をお土産に買って帰るのも良いですよね。




掲載日:2014年01月31日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。