日本旅行 トップ > JR・新幹線+宿泊 > 鉄道の旅 > 汽車旅ひろば > ひろやすの汽車旅コラム 「重要文化財を歩こう! 碓氷(うすい)峠鉄道施設」

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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

重要文化財を歩こう! 碓氷(うすい)峠鉄道施設 [No.H080]

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碓氷峠鉄道施設のなかでも、特に知名度がたかい「めがね橋」こと碓氷第三橋梁。5基あるレンガ橋のなかで、最も規模が大きい。
碓氷峠は、群馬県横川と長野県軽井沢の間にある峠で、江戸時代には中山道の難所として知られていました。明治になって鉄道建設を進める際には、東京と京都を結ぶ最初の路線として中山道幹線が計画されたのですが、この碓氷峠を越える方法がなく断念。急遽、太平洋沿いの東海道本線を建設したという歴史があります。
その碓氷峠を克服したのは、レールとレールの間に敷いたのこぎり歯のような歯軌条に、機関車につけた歯車を噛み合わせて上るアプト式と呼ばれる方式でした。当時、ドイツ中北部のハルツ山鉄道に採用されたアプト式技術をみて、日本にも導入することになったものです。1893(明治26)年に、トンネル26基とレンガ橋18基を含む横川~軽井沢間が開通し、標高差553mを克服しました。信越本線の誕生です。
1963(昭和38)年に粘着方式(一般的な鉄道線)の新線に切り換えられて、アプト区間は廃線となりました。その後、長年放置されていたのですが、近年になって峠の麓にあたる丸山変電所から、中間付近の熊ノ平信号所までが「アプトの道」として整備され、誰もが気軽に散策できるようになりました。その「アプトの道」のなかで、もっとも規模の大きなレンガ橋が「めがね橋」として知られる、碓氷第三橋梁です。いまでもガッチリと残っている要因の一つに、建設当初となる1891(明治24)年に濃尾大震災が起きたため、耐震性を見直したことがあるようです。


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ハイキングシーズンのめがね橋付近には、多くのハイカーが訪れていた。案内表示がしっかりとしていて安心だ。

「アプトの道」として整備された区間には、レンガアーチ橋が5基とトンネルが10基残り、丸山変電所跡の建物二棟とともに、国の重要文化財「碓氷峠鉄道施設」となっています。その重要文化財を、歩いて楽しむことができるわけです。道中の案内表示は左の写真のとおりしっかりとしていますし、ところどころに休憩所も用意されています。各施設の案内表示もちゃんとあります。
鉄道にとっては急勾配でも、歩けばさほどの坂ではないので、その点でも安心してハイキングを楽しめます。そろそろ春めいてきたので、これからのシーズン、週末ともなるとハイキングに訪れる人で賑わうことでしょう。特に新緑の季節は、森林浴もできて気持ちの良いところです。



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最長の第6隧道(トンネル)は546mもあり、途中には明かり取り用の横穴のほか、上部に排煙用の穴もある。
めがね橋の熊ノ平側(軽井沢側)にある第6隧道(ずいどう)は、「アプトの道」で最も長いトンネルで、546mもあります。そのため、散策ができるように18時までは内部に照明がついています。途中でカーブしているのですが、そこには右の写真のとおり、明かり取り用の横穴に加えて上部にも穴が開いています。この穴は、開通当初に蒸気機関車を使用していたときの名残で、煙をトンネル内から逃すためのものでした。ちなみに、電化されたのは1912(大正元)年ですから、100年以上前に要らなくなった遺物ということになります。こんなところにも、歴史を感じさせますね。
ところで、「アプトの道」へは観光シーズンに横川~軽井沢を結ぶジェイアールバス関東が1日1往復の路線バスを走らせています。このバスが走っているなら、まずは熊ノ平までバスで移動して、そこから歩いて横川まで下ってくるルートがお勧めです。ただし、このバスの運転日は少ないので、往復歩くか、行きにタクシーを使うかするのが現実的でしょう。ちなみに、筆者は軽井沢駅から横川駅まで歩きましたが、これは健脚な方でなければお勧めできない長距離歩行となります。





掲載日:2014年03月20日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。