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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
大阪で半日あれば、盲腸線3線めぐりを楽しめる [No.H124]
大阪で少し時間ができた…どこへ行こうか?と思ったときに、盲腸線めぐりはいかがでしょう。3つの盲腸線が大阪市南部と、その南に位置する堺市~高石市にあるのです。今回は、その3線区をご紹介しましょう。
まずは、大阪環状線の天王寺駅から阪和線に乗り、区間快速で14分の鳳(おおとり)駅に行きます。跨線橋を渡って5番線へ行くと、短いホームがあります。これが阪和線の支線で、通称・羽衣(はごろも)線です。次の駅は終点の東羽衣駅で、途中駅はありません。鳳駅付近を除いて高架化されていますので、町中を見下ろす形で単調に進むだけですが、のんびりと進む3分間は、なぜだか不思議に楽しいものです。
電車は、国鉄形103系の3両編成です。それも原形をとどめる外観ですから、特に首都圏在住の方には懐かしく感じることと思います。この103系が、全線1.7kmを3分間で走ります。15分間隔で1編成が発着するピストン運転ですから、103系に乗りたくなったら、気軽に乗りに行けるのも嬉しいところです。
到着した東羽衣駅も高架上にある駅で、単線の両横にホームがあります。乗車ホームと降車ホームに分かれているのです。この駅で乗客が入れ代わると、103系電車はふたたび鳳駅に戻っていくわけです。
東羽衣駅で降りたら、改札から先へと真っ直ぐに進みます。するとすぐに南海電鉄の高架線の下に出ます。そこから左手に、南海羽衣駅が見えます。両駅間はわずか100mですが、家並みに阻まれて相手方の駅が見えないので、このルートを通るのが確実でしょう。
羽衣駅はいま高架工事の真っ最中ですが、まだ地上ホームを使用しています。上り線用と下り線用のホームが向かい合っている相対式2面2線の駅ですが、そのなんば方面2番ホームの和歌山方には、付け足したような3番ホームがあります。この3番ホームが、2つ目の盲腸線となる、高師浜(たかしのはま)線用のホームです。
羽衣~高師浜間1.5km、所要3分は、さきほどの羽衣支線とほぼ同じですが、高師浜線は昼間に20分間隔での運転となるほか、途中に伽羅橋(きゃらばし)駅がある点が異なります。伽羅橋とは、なんとも風雅な香りのする駅名ですよね。かつて、駅付近に大雄寺という南北朝時代にできた大寺院があり、門前に架かる橋が香木として珍重される伽羅でできていたことに由来するそうです。寺院も橋も焼失してしまったとのことで、なんとも残念なことです。
羽衣線と同じく、羽衣駅をでるとすぐに高架となり、中間の伽羅橋駅も、終点の高師浜駅も高架駅となっています。その高師浜駅はちょっとお洒落な駅舎で、三角屋根と駅入り口の間にある明かり採りは、鳥が飛翔する図柄のステンドグラスになっています。
この高師浜駅に行くと、モデル張りのスタイルをしたスポーツ選手っぽい青少年を見かけることがあります。駅からすぐの所に大阪府立臨海スポーツセンターがあり、そこにスケートリンクがあるのですが、フィギュアスケートの元日本代表・高橋大輔氏がかつて練習拠点にしていたリンクなのです。そこに通うフィギュアスケーターが利用する駅というわけです。
高師浜線のあとは、南海本線に戻り、羽衣駅から岸里玉出(きしのさとたまで)駅まで30分弱の小旅行です。といっても、両駅間はわずか11.6km。各駅停車での移動なので、時間がかかるのです。
岸里玉出駅は変わった造りになっています。というのも、南海本線と高野線がこの駅から分かれていくのです。その分かれた場所に駅があるため、南海本線に対して、高野線のホームは斜めに位置しています。このため、駅全体は扇形となっています。その扇の把手部分に地下道があり、改札口にアクセスし、ホーム間を移動するようになっています。その一番西の外れにある6番ホームが、これから乗る汐見橋方面の乗り場です。JR羽衣線や南海高師浜線と同じく、短いホームが駅構内の端っこについているという感じです。そこにやってくるのは2両編成の電車。この電車が岸里玉出~汐見橋間4.6km、中間4駅を9分で結んでいます。
30分に1本しかない電車ですが、走りはじめると線路はしっかりとした複線です。ホームも長くて、岸里玉出駅のホームの短さとは違和感があります。終点の汐見橋駅は行き止まりとなった先に駅舎がある頭端型ですが、長いホームの両側に線路があります。ただし、どことなく古い設備というイメージです。
駅の改札を出て振り返ると、自動改札機の上に、なにやら古い絵地図があります。よくみると、「南海沿線観光案内図」と左端に書かれていて、「南海汽船」の航路も描かれています。その行き先は、淡路島の洲本、四国の小松島(徳島の南にある町)、それに南紀の白浜となっています。その一番右上を見ると…汐見橋からの線路は、そのまま高野線につながっていて、南海本線とは直行しています! そうなのです。もともと南海高野線は、この汐見橋駅を起点とする路線だったのです。いまも、国土交通省監修の鉄道要覧には、高野線が汐見橋~極楽橋間64.5kmとなっています。でも、現実には、高野線の列車はすべて難波発となっていて、汐見橋~岸里玉出間は高野線とまったくつながっていません。なんとも珍しい盲腸線になってしまったわけです。
なお、汐見橋駅すぐの地下には、阪神なんば線と大阪市営地下鉄千日前線の桜川駅があります。ですから、下車後の移動も実に便利な駅です。でも、2両編成の電車が30分に1本走るだけ、それも車内は閑散としているような、都会のなかのローカル線となっています。
それぞれに特徴のある盲腸線3線区です。機会をみて、皆さんも乗ってみて下さいね。
掲載日:2015年01月30日
まずは、大阪環状線の天王寺駅から阪和線に乗り、区間快速で14分の鳳(おおとり)駅に行きます。跨線橋を渡って5番線へ行くと、短いホームがあります。これが阪和線の支線で、通称・羽衣(はごろも)線です。次の駅は終点の東羽衣駅で、途中駅はありません。鳳駅付近を除いて高架化されていますので、町中を見下ろす形で単調に進むだけですが、のんびりと進む3分間は、なぜだか不思議に楽しいものです。
電車は、国鉄形103系の3両編成です。それも原形をとどめる外観ですから、特に首都圏在住の方には懐かしく感じることと思います。この103系が、全線1.7kmを3分間で走ります。15分間隔で1編成が発着するピストン運転ですから、103系に乗りたくなったら、気軽に乗りに行けるのも嬉しいところです。
到着した東羽衣駅も高架上にある駅で、単線の両横にホームがあります。乗車ホームと降車ホームに分かれているのです。この駅で乗客が入れ代わると、103系電車はふたたび鳳駅に戻っていくわけです。
東羽衣駅で降りたら、改札から先へと真っ直ぐに進みます。するとすぐに南海電鉄の高架線の下に出ます。そこから左手に、南海羽衣駅が見えます。両駅間はわずか100mですが、家並みに阻まれて相手方の駅が見えないので、このルートを通るのが確実でしょう。
羽衣駅はいま高架工事の真っ最中ですが、まだ地上ホームを使用しています。上り線用と下り線用のホームが向かい合っている相対式2面2線の駅ですが、そのなんば方面2番ホームの和歌山方には、付け足したような3番ホームがあります。この3番ホームが、2つ目の盲腸線となる、高師浜(たかしのはま)線用のホームです。
羽衣~高師浜間1.5km、所要3分は、さきほどの羽衣支線とほぼ同じですが、高師浜線は昼間に20分間隔での運転となるほか、途中に伽羅橋(きゃらばし)駅がある点が異なります。伽羅橋とは、なんとも風雅な香りのする駅名ですよね。かつて、駅付近に大雄寺という南北朝時代にできた大寺院があり、門前に架かる橋が香木として珍重される伽羅でできていたことに由来するそうです。寺院も橋も焼失してしまったとのことで、なんとも残念なことです。
羽衣線と同じく、羽衣駅をでるとすぐに高架となり、中間の伽羅橋駅も、終点の高師浜駅も高架駅となっています。その高師浜駅はちょっとお洒落な駅舎で、三角屋根と駅入り口の間にある明かり採りは、鳥が飛翔する図柄のステンドグラスになっています。
この高師浜駅に行くと、モデル張りのスタイルをしたスポーツ選手っぽい青少年を見かけることがあります。駅からすぐの所に大阪府立臨海スポーツセンターがあり、そこにスケートリンクがあるのですが、フィギュアスケートの元日本代表・高橋大輔氏がかつて練習拠点にしていたリンクなのです。そこに通うフィギュアスケーターが利用する駅というわけです。
高師浜線のあとは、南海本線に戻り、羽衣駅から岸里玉出(きしのさとたまで)駅まで30分弱の小旅行です。といっても、両駅間はわずか11.6km。各駅停車での移動なので、時間がかかるのです。
岸里玉出駅は変わった造りになっています。というのも、南海本線と高野線がこの駅から分かれていくのです。その分かれた場所に駅があるため、南海本線に対して、高野線のホームは斜めに位置しています。このため、駅全体は扇形となっています。その扇の把手部分に地下道があり、改札口にアクセスし、ホーム間を移動するようになっています。その一番西の外れにある6番ホームが、これから乗る汐見橋方面の乗り場です。JR羽衣線や南海高師浜線と同じく、短いホームが駅構内の端っこについているという感じです。そこにやってくるのは2両編成の電車。この電車が岸里玉出~汐見橋間4.6km、中間4駅を9分で結んでいます。
30分に1本しかない電車ですが、走りはじめると線路はしっかりとした複線です。ホームも長くて、岸里玉出駅のホームの短さとは違和感があります。終点の汐見橋駅は行き止まりとなった先に駅舎がある頭端型ですが、長いホームの両側に線路があります。ただし、どことなく古い設備というイメージです。
駅の改札を出て振り返ると、自動改札機の上に、なにやら古い絵地図があります。よくみると、「南海沿線観光案内図」と左端に書かれていて、「南海汽船」の航路も描かれています。その行き先は、淡路島の洲本、四国の小松島(徳島の南にある町)、それに南紀の白浜となっています。その一番右上を見ると…汐見橋からの線路は、そのまま高野線につながっていて、南海本線とは直行しています! そうなのです。もともと南海高野線は、この汐見橋駅を起点とする路線だったのです。いまも、国土交通省監修の鉄道要覧には、高野線が汐見橋~極楽橋間64.5kmとなっています。でも、現実には、高野線の列車はすべて難波発となっていて、汐見橋~岸里玉出間は高野線とまったくつながっていません。なんとも珍しい盲腸線になってしまったわけです。
なお、汐見橋駅すぐの地下には、阪神なんば線と大阪市営地下鉄千日前線の桜川駅があります。ですから、下車後の移動も実に便利な駅です。でも、2両編成の電車が30分に1本走るだけ、それも車内は閑散としているような、都会のなかのローカル線となっています。
それぞれに特徴のある盲腸線3線区です。機会をみて、皆さんも乗ってみて下さいね。
掲載日:2015年01月30日
●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。