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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

なぜか懐かしい、昭和イメージの国道駅 [No.H198]

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国道駅は、鶴見線の高架橋下にできた通路を入ったところにある。その入口からしてレトロ感満載。
国道駅を知っていますか?
東海道本線の鶴見駅から分岐するJR鶴見線の電車が、最初に停まる駅です。鶴見駅からわずか900m、川崎駅からでも4. 4kmながら、横浜市鶴見区に位置する駅です。この先にある海沿いの工業地帯に通う人たちを運ぶ通勤路線ですが、その駅入り口は右の写真のとおり、とてもレトロで、平成の世の横浜市内の通勤路線の駅とは思えない様相です。
この駅入り口は、第一京浜こと国道15号線の歩道です。このように、国道15号線と鶴見線との交差地点に造った駅なので、そのものズバリの「国道」という駅名にしたようです。

写真では見にくいのですが、「国道駅」の表示の下にある明るい部分に、緑色のネットが掛けられています。この部分に近付いて見ると、コンクリート片にボツボツと穴が開いています。これは、第二次世界大戦中の機銃掃射の跡だということです。


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薄暗い高架下に、国道駅の駅改札口がある。落書きや、改札前の赤提灯が、えもいわれぬ雰囲気を醸し出している。
さて、高架下に入り、国道駅の改札口へと進みましょう。
少々薄暗いものの、危険というほどではありません。すぐに改札口があります。
周囲を見回すと、壁には落書きがあったり、自動券売機の前には年季の入っていそうな木製の荷物置き場があったりと、昭和の映画に出てきそうなシーンが広がっています。実際、映画やテレビドラマのロケに使われることも少なくないようです。
その極めつけは、改札前にある赤提灯でしょう。「やきとり」と書かれていて、その前にはテーブルがあります。筆者は夕方に行ったので、仕事帰りの方々なのか、イッパイやりながら歓談していました。
この高架下には店が連なって賑やかだったようですが、いま営業しているのはこの一軒だけのようです。やきとりの香ばしい臭いが漂ってきて、つい寄り道をしたくなります。
ちなみに、お店の名前は「高架下」。奇をてらうでも無く、そのまんまの店名は、この場所に似合っていますよね。
似合っていないのは、前述の自動券売機と、その先にあるSuicaの入出場機でしょう。これらだけ、周囲をよそに近代化が進んでいるようです。


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改札口から先は、さらに高架下が続く。店は閉まっているものの、生活感の漂う光景が展開されている。
改札口からさらに先へ、歩を進めましょう。
天井から側壁にかけてアーチ状の壁があり、それが連なっていることで、高架下の空間にアールヌーヴォー調の雰囲気を醸している…と書きたいところですが、どうもそのような雰囲気でなく、むしろ昭和の場末の雰囲気です。
もと店舗だったと思われる家は、玄関付近から生活感がにじみ出ています。コンクリート高架下でありながら、木製っぽい柱や梁、それに木製の壁板も、見るからに年季の入ったものです。
わずか100m足らずの高架下ながら、異空間に迷い込んだような感覚が得られる、貴重な本物のレトロといって良いでしょう。
ちなみに、この国道駅ができたのは昭和5(1930)年です。第一次世界大戦と第二次世界大戦のあいだの時期で、世界恐慌が起きた翌年の、日本が昭和恐慌に突入する頃のことでした。

ところで、駅の住所は鶴見区生麦町です。
幕末に、島津藩の行列を横切ったイギリス人を切りつけて殺傷したことで、後の薩英戦争に発展する生麦事件は、この駅から南西に500mほどのところで起きました。同地からさらに500mほどいったところで、同事件の犠牲者リチャードソンが絶命したため、ここに「生麦事件の碑」が建っています。
そんな歴史を知って散策するのに良い一帯です。


掲載日:2016年07月29日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。