日本旅行 トップ > JR・新幹線+宿泊 > 鉄道の旅 > 汽車旅ひろば > ひろやすの汽車旅コラム 「留萌本線の末端部・留萌~増毛間が12月5日廃止に」

[ ここから本文です ]

汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

留萌本線の末端部・留萌~増毛間が12月5日廃止に [No.H210]

イメージ
クリックして拡大
簡素な駅舎に掲げられた「増毛駅」の看板は、横書きが多い駅名表示としては珍しい縦書き。
JR北海道が経営難に陥るとともに、近年事故が多発したことは皆さんご存知の通りです。安全第一の鉄道において、このままでは不味い…と国土交通省が指導に入り、JR東日本に幹部派遣を依頼するなど、抜本改革を進めてきています。
そのようなタイミングで、今年は台風が次々と北海道に上陸し、多くの箇所で運行不能となりました。順次復旧しているものの、このコラムが公開される時点で不通となっているのは、石勝線トマム~新得間、根室本線東鹿追~新得~帯広間の見込みです。

このような状況で、いよいよ路線廃止の話が増えてきました。
一昨年(2014)年5月に江差線の木古内~江差間が廃止されていますが、これは北海道新幹線開業に伴うものと考えて良いでしょう。五稜郭~江差間が第三セクター鉄道「道南いさりび鉄道」になりましたが、そこに木古内~江差間が加われなかったのでした。利用者数があまりに少なく、致し方ないという印象でした。
それに対して、新幹線のような外部要因がない留萌(るもい)本線の留萌~増毛(ましけ)間16.7kmが、約1ヶ月半後の12月5日に廃止されます。昨年8月10日付で、JR北海道が平成28年度中の廃止を留萌市長と増毛町長に説明した旨のリリース文がでました。その後、今年6月28日付で、廃止日を12月5日に繰り上げたことが発表されました。つまり、最終列車は12月4日に走ることになります。

同区間は海岸沿いに走る区間ですが、線路の内陸側は切り立った崖で、毎年春先には雪解けのため雪崩や斜面崩壊の怖れがあるため、雪解けが終わるまで運休をするという珍しい区間です。それも、運休中は並行する路線バスのない時間帯に、タクシー代行で対応するほど利用者が少ない区間です。
ちなみに、昨年3月24日付で発表された、3月25日からのタクシー代行を行う旨のJR北海道のリリース文には、1日あたり13本が運休し、影響を受ける人は上下あわせて約40名となっています。大量高速輸送を得意とする鉄道だけに、これほどの少人数では特性を発揮できません。さらに、並行する道路はしっかりと整備されています。
残念ではありますが、廃止は致し方ないと納得するしかないようです。


イメージ
クリックして拡大
車止めの少し先にホームがあるが、駅舎は車止めの右側。これほど離れているのは、かつての貨物取扱いの関係だろうか。
筆者が現地を訪れたのは、昨年の11月でした。すでに翌年度の廃止方針が発表されていて、しかも週末だったので、乗車目的で増毛まで来ている方が大勢いました。それでも、たった1両のディーゼルカーでありながら、全員が着席できる程度の人数でした。
廃止が近くなった昨今は、さすがにそれほど少なくはなく、週末には2両編成で走っているようです。
終着の増毛駅は、盲腸線の終点であることが誰の目にも判るほど簡素です。なにせ、線路一本にホームが一面あるだけで、その線路もホームの先にある車止めでお終いです。
かつては、ホームを両面とも使用していたでしょうし、ホームと反対側の空き地には、貨物用の線路が何本も敷かれていたことでしょう。ホームと駅舎が少し離れているのも、そんな貨物取扱い時代の名残ではないかと思われます。

ところで、廃止対象の留萌~増毛間16. 7kmには、7つもの中間駅があります。平均駅間距離は約2.1kmですので、北海道としてはかなり駅数が多い区間です。これは、国鉄時代に仮乗降場と呼ばれる、国鉄本社直轄ではなく、地方の管理局が独自に開設した駅が多くあったためです。この仮乗降場は特に北海道に多く、北海道時刻表や道内時刻表には掲載されているものの、全国版の時刻表ではその存在すら判らなかった駅です。それが、国鉄の分割民営化で「仮」がとれて乗降場…つまり駅に昇格しました。
同線に乗ると、仮乗降場の名残で、今も運転士近くのドアからだけしか乗降できない短いプラットホームの駅が見られます。ただし、北海道ですので、防寒・防風のために簡易ではあっても待合室は設置されているようです。そんな、今時珍しい駅の姿も、間もなく見納めになります。


イメージ
クリックして拡大
発車準備を終えた増毛発の列車。そのすぐ後ろに車が見えるのは、盲腸線ならではだが、やはり違和感を感じてしまう。
留萌~増毛間は、増毛に着いた列車が少し時間をおいて折り返していく運用となっています。増毛駅での折り返し時間は最少8分、最大50分とバラバラです。
50分あればともかく、わずか8分では駅前を少しぶらついたらお終いとなります。それではもったいないので、増毛まで行くなら、できれば1本列車を見送って街歩きも楽しみたいところです。
増毛駅を出てすぐのところにある観光案内所は、5月から9月だけの営業ですので、いまは利用できませんが、その建物は故・高倉健氏主演の映画「駅(ステーション)」の舞台となったところです。いまも、ロケ当時の様子を色濃く残し、「観光案内所」の看板よりも「風待食堂」の看板の方が目立っているほどです。
そこから200mほど町中方向に行くと、国稀(くにまれ)酒造のこれまた古風な木造建築があります。日本最北の酒蔵で、店内で試飲したうえで好みの銘柄を購入することができます。その店内は売店が充実していて、お酒だけでなく土産物も置いてあります。その土産物には、なぜか鉄道グッズも多く、思わずニヤリとしてしまうほどです。
前述の映画「駅(ステーション)」は、この国稀酒造でもロケを行ったとのことで、玄関に近い一室は、同映画の記憶を止めた記念室のようになっていて、誰でも見学ができるようになっています。
お気に入りの日本酒を買い、試飲でほろ酔い気分になって駅に戻り、次の列車で増毛駅を後にする… そんな汽車旅が、間もなく過去のこととなってしまいます。

このような廃止路線はこれが最後となれば良いのですが、現実には冒頭に記したとおり、今後増えていく様子です。
特にJR北海道の路線は対象が多く、今後、各関係自治体と協議していくこととなっています。そのなかで、夕張市長は敢えてJR北海道に廃止提案をするという、異例の対応をしました。
夕張市長は、夕張市が財政破綻した際に、東京都庁から派遣されていった方が、その後一念発起して都庁を退職、市長選に立候補して当選された若い行動力と発想力をもった方です。その夕張市長は、JR北海道から廃止打診の先手を打って、新夕張~夕張間16. 1kmの廃止提案をすることで、JR北海道から最大限の援助を得ようとしたのです。過去のしがらみで市政運営をしているような長では、とてもできないことだと思います。
JR北海道としてもできるだけの対応を約束し、今後、廃止に向けた協議を進めていくとのことです。いまのところ、2019年3月の廃止が有力とされていますが、今後の成り行きによっては廃止時期が変わることも考えられます。
このほか、JR西日本は三江線を廃止する意志を表明しています。まだ廃止日は決定していませんが、さほど遠くない時期に決定されることでしょう。
国鉄からJRになって来年4月で30年となります。そろそろ、JRも一時代が過ぎて、次の時代に移っていく時期ということなのかもしれませんね。


掲載日:2016年10月21日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。