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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!
大井川鐵道井川線が922日ぶりに全線で運転再開 [No.H230]
大井川鐵道は、年間を通して蒸気機関車が走る大井川本線が有名ですが、その終点の千頭から井川までの井川線もあります。「南アルプスあぷとライン」の愛称がついている路線です。
井川線は全線25. 5kmですが、約1時間50分もかけて走ります。もともと中部電力の電源開発のためにできた鉄道で、急峻な山と大井川の渓谷に挟まれた地を、文字どおり縫うように走っているためです。工事用の路線として造られたため、トンネル断面が狭く、井川線専用の小振りな車両を使用しています。
2002年に竣工した長島ダムの工事の際に並行道路が整備されたこと、それに沿線人口が減少したことから、井川線を生活の足として利用する人は今やほとんどいないようです。結果、いまは観光路線となっています。
井川線の最も奥に位置する接岨峡(せっそきょう)温泉~尾盛(おもり)~閑蔵(かんぞう)~井川間10. 0kmは、2014年9月2日から不通となりました。閑蔵駅の尾盛駅側600m付近で土砂崩れがあったのです。しかも、崩れた土砂を撤去すると二次災害が起きる怖れがあったため、復旧工事には慎重を期すことになりました。
それから約2年半、ようやく運転を再開したのは今年3月11日のことで、922日にも及ぶ運休となりました。いま、井川線の列車には、先頭に全線復旧のヘッドマークが掲げられています。通常、この手のヘッドマークは「祝」の文字が入るものですが、井川線の場合は、右上の写真にあるとおり
「お待たせしました!!」
としています。
関係者の気持ちが伝わってくる一文ですよね。
運転を再開した区間には、見どころがいろいろとあります。
接岨峡温泉を発車して次に停まる尾盛駅は、駅につながる道がありません。周りに家屋もありません。運休前には、熊が出没したとして、大井川鐵道が安全のために下車禁止の措置をしたこともあるほどの駅です。
かつて木材の積み出し駅として使われ、南アルプスへの登山口としても利用されていたそうですが、いまはそれらもなく、線路沿いにつながっていた道も崖の崩落で途切れたままとなっています。まさに陸の孤島の言葉がピッタリの駅で、牛山隆信氏による話題の秘境駅ランキング「秘境駅へ行こう」では、堂々の2位となっている駅です。
尾盛駅を発車してしばらくすると、日本一高い鉄橋として知られる関の沢橋梁があります。川底からの高さが70. 8mもある鉄橋で、山深い接岨峡を一望できるため、列車は速度を落としてその景色を見せてくれます。
列車の速度は冒頭に記したとおりとてもゆっくりです。そこからさらに速度を落とすのですから、減速というより停止するかのように進みます。
井川線では、この関の沢橋梁以外でも、ビュースポットでは速度を落とし、車掌がその見どころを解説してくれるサービスがあります。観光鉄道ならではの対応です。
関の沢橋梁を渡る列車を対岸から写したのが、左上の写真です。いかに山深く急峻なところかが分かりますよね。鉄橋は市町境に架かっていて、左側は榛原郡川根本町、右側は静岡市葵区です。この山中に政令指定都市の区が存在することも、不思議な気がします。
関の沢橋梁を渡り、さらに井川方向に進んだところに、長期運休の原因となった崩落箇所があります。
井川線が全線での運転を再開してからちょうど一週間となる3月18日(土)に、沿線住民と大井川鐵道とでつくる「南アルプスあぷとライン周辺地域誘客協議会」が祝賀式典を開き、祝賀列車を運行しました。
同列車は客車8両編成と長いため、ディーゼル機関車DD20形が重連となりました。井川線の列車は、アプトいちしろ~長島ダム間にある日本最急勾配区間で、アプト式電気機関車ED90形の後押しをされます。今回、この列車には特別にED90形3両すべてが充当されました。結果、同区間ではアプト用三重連と井川線用重連の五重連運転が実現して、華を添えました。右上がその様子です。DD20は2両の色が違いますが、左側は全線運転再開を機に以前の塗装に戻した復刻塗装のDD206です。
最急勾配は90パーミル(‰)ですが、これは1000m進むと90m登る坂のことです。鉄道は通常10パーミル以上で急勾配と言われ、JR線では最大でも33. 3パーミルまでとなっています。いかに急な坂かが分かるでしょう。
それほどの急勾配ですので、レールと車輪の摩擦だけに頼っていると、車輪が空転してしまうばかりでなく、上りたいのにズルズルと下りてきてしまうようなことが起きかねません。その対応として、レール間にのこぎりの歯のようなラックレールを設け、機関車側につけた歯車(ピニオン)を食い込ませて上り下りしています。これをラック&ピニオン方式と呼びます。
ラック&ピニオンにはいくつもの方式がありますが、日本の営業線で採用されているのは、ここ大井川鐵道井川線のアプト式だけです。過去には、国鉄信越本線の碓氷峠(横川~軽井沢間)に、同じくアプト式が採用されていたことがありましたが、国内でのラック&ピニオン採用例はこの2例だけという珍しいものです。
見どころがいろいろとある井川線。ご覧の通り眺めも良いところですので、ぜひ乗りに行って下さいね。
気候の良い5月13日(土)~14日(日)には、1泊2日で「祝!大井川鐵道井川線全線復旧 清水薫 大井川鐵道撮影教室2日間」というツアーも計画されています。初日に大井川本線、二日目に井川線の要所を巡る撮影旅行です。興味のある方は、こちらをご覧下さい。
掲載日:2017年03月24日
井川線は全線25. 5kmですが、約1時間50分もかけて走ります。もともと中部電力の電源開発のためにできた鉄道で、急峻な山と大井川の渓谷に挟まれた地を、文字どおり縫うように走っているためです。工事用の路線として造られたため、トンネル断面が狭く、井川線専用の小振りな車両を使用しています。
2002年に竣工した長島ダムの工事の際に並行道路が整備されたこと、それに沿線人口が減少したことから、井川線を生活の足として利用する人は今やほとんどいないようです。結果、いまは観光路線となっています。
井川線の最も奥に位置する接岨峡(せっそきょう)温泉~尾盛(おもり)~閑蔵(かんぞう)~井川間10. 0kmは、2014年9月2日から不通となりました。閑蔵駅の尾盛駅側600m付近で土砂崩れがあったのです。しかも、崩れた土砂を撤去すると二次災害が起きる怖れがあったため、復旧工事には慎重を期すことになりました。
それから約2年半、ようやく運転を再開したのは今年3月11日のことで、922日にも及ぶ運休となりました。いま、井川線の列車には、先頭に全線復旧のヘッドマークが掲げられています。通常、この手のヘッドマークは「祝」の文字が入るものですが、井川線の場合は、右上の写真にあるとおり
「お待たせしました!!」
としています。
関係者の気持ちが伝わってくる一文ですよね。
運転を再開した区間には、見どころがいろいろとあります。
接岨峡温泉を発車して次に停まる尾盛駅は、駅につながる道がありません。周りに家屋もありません。運休前には、熊が出没したとして、大井川鐵道が安全のために下車禁止の措置をしたこともあるほどの駅です。
かつて木材の積み出し駅として使われ、南アルプスへの登山口としても利用されていたそうですが、いまはそれらもなく、線路沿いにつながっていた道も崖の崩落で途切れたままとなっています。まさに陸の孤島の言葉がピッタリの駅で、牛山隆信氏による話題の秘境駅ランキング「秘境駅へ行こう」では、堂々の2位となっている駅です。
尾盛駅を発車してしばらくすると、日本一高い鉄橋として知られる関の沢橋梁があります。川底からの高さが70. 8mもある鉄橋で、山深い接岨峡を一望できるため、列車は速度を落としてその景色を見せてくれます。
列車の速度は冒頭に記したとおりとてもゆっくりです。そこからさらに速度を落とすのですから、減速というより停止するかのように進みます。
井川線では、この関の沢橋梁以外でも、ビュースポットでは速度を落とし、車掌がその見どころを解説してくれるサービスがあります。観光鉄道ならではの対応です。
関の沢橋梁を渡る列車を対岸から写したのが、左上の写真です。いかに山深く急峻なところかが分かりますよね。鉄橋は市町境に架かっていて、左側は榛原郡川根本町、右側は静岡市葵区です。この山中に政令指定都市の区が存在することも、不思議な気がします。
関の沢橋梁を渡り、さらに井川方向に進んだところに、長期運休の原因となった崩落箇所があります。
井川線が全線での運転を再開してからちょうど一週間となる3月18日(土)に、沿線住民と大井川鐵道とでつくる「南アルプスあぷとライン周辺地域誘客協議会」が祝賀式典を開き、祝賀列車を運行しました。
同列車は客車8両編成と長いため、ディーゼル機関車DD20形が重連となりました。井川線の列車は、アプトいちしろ~長島ダム間にある日本最急勾配区間で、アプト式電気機関車ED90形の後押しをされます。今回、この列車には特別にED90形3両すべてが充当されました。結果、同区間ではアプト用三重連と井川線用重連の五重連運転が実現して、華を添えました。右上がその様子です。DD20は2両の色が違いますが、左側は全線運転再開を機に以前の塗装に戻した復刻塗装のDD206です。
最急勾配は90パーミル(‰)ですが、これは1000m進むと90m登る坂のことです。鉄道は通常10パーミル以上で急勾配と言われ、JR線では最大でも33. 3パーミルまでとなっています。いかに急な坂かが分かるでしょう。
それほどの急勾配ですので、レールと車輪の摩擦だけに頼っていると、車輪が空転してしまうばかりでなく、上りたいのにズルズルと下りてきてしまうようなことが起きかねません。その対応として、レール間にのこぎりの歯のようなラックレールを設け、機関車側につけた歯車(ピニオン)を食い込ませて上り下りしています。これをラック&ピニオン方式と呼びます。
ラック&ピニオンにはいくつもの方式がありますが、日本の営業線で採用されているのは、ここ大井川鐵道井川線のアプト式だけです。過去には、国鉄信越本線の碓氷峠(横川~軽井沢間)に、同じくアプト式が採用されていたことがありましたが、国内でのラック&ピニオン採用例はこの2例だけという珍しいものです。
見どころがいろいろとある井川線。ご覧の通り眺めも良いところですので、ぜひ乗りに行って下さいね。
気候の良い5月13日(土)~14日(日)には、1泊2日で「祝!大井川鐵道井川線全線復旧 清水薫 大井川鐵道撮影教室2日間」というツアーも計画されています。初日に大井川本線、二日目に井川線の要所を巡る撮影旅行です。興味のある方は、こちらをご覧下さい。
掲載日:2017年03月24日
●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。