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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

未成線を走る、乗って楽しい「赤村トロッコ」 [No.H241]

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国鉄油須原線用に造られた築堤を走る「赤村トロッコ」。見ているだけでも楽しくなる光景だ。
「赤村トロッコ油須原(ゆすばる)線」をご存じでしょうか。
福岡県を走る平成筑豊鉄道の赤駅からでている観光鉄道で、毎年3月から11月まで毎月第2日曜日を基本に運行しています。
赤駅は赤村にある駅で、のどかな山中にあります。JR日豊本線行橋駅から18. 4km約30分、JR筑豊本線直方駅からだと24. 0km約50分のところです。やや不便ながら、北九州や福岡から日帰りができます。
平成筑豊鉄道は、国鉄田川線等を引き継いで運行されている第三セクター鉄道で、国鉄時代には筑豊の炭坑でとれた石炭を多く運んでいました。その筑豊にはかつて網の目のように線路が敷かれ、石炭と炭坑に拘わる人々を運んでいました。
その路線網をさらに充実させるべく建設された路線のひとつに、油須原(ゆすばる)がありました。この赤駅で田川線から分岐して、日田彦山線の豊後川崎駅までを結ぶ路線でした。豊後川崎からは、さらに廃止された上山田線に直通運転することが予定されていたようです。
ところが、ほぼ路盤ができた頃には産業構造が変わり、筑豊の炭田は閉鎖が相次ぐ状況となっていました。これでは採算性が見込めないとして、完成目前でありながらもレールが敷かれることはありませんでした。
このように、予定されながらも開業に到らなかった路線を「未成線」と呼んでいます。その未成線として建設された路盤を使って運転しているのが、「赤村トロッコ油須原線」です。
路盤は水道に利用されているため、約1メートルの嵩上げがされていますが、写真をみて判るとおり、築堤は国鉄線用に造られただけあって、しっかりしたものです。また途中にはトンネルも2箇所あります。


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隣村との境近くまで入っていくトンネル内は神秘的。コウモリが住んでいて、飛び交うところが見られる。
赤村トロッコは、赤駅から往復約3.4キロを走りますが、折返し地点は野原越(のばらごし)トンネルの中です。このトンネルは赤村とお隣の大任町の町村境にあるため、隣町に入る手前で折り返すわけです。とはいえ、真っ暗なトンネル内を約300メートルも走りますから、実感としてはもっと長く感じます。
そのトンネル内にはコウモリが巣くっているようで、よくトロッコ内から飛んでいる様子が見られるそうです。実際、筆者が乗ったときにも、コウモリが飛んでいました。
左の写真は、トロッコの運転士がコウモリがいるところを指差し、乗客が思わず身を乗り出しているところです。走行音はトンネル内でかなり大きいのですが、右上に写っているスピーカーのお陰で、説明も聞き取ることができました。


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赤村トロッコをオーバークロスする道路橋には「油須原線」の銘板があり、国鉄油須原線用に造られたことが判る。
右の写真は、復路の赤村トロッコを、途中でオーバークロスする道から撮ったものです。
この道は地元の方が利用する一般道ですが、橋の欄干を両端で支えるコンクリート部分に「油須原線」の銘板が入っています。国鉄油須原線を敷くために架けられた道路橋ということが、ここでも確認できるわけです。
他に掲げられている銘板をみたところ、「ほんむらこせんきょう」「昭和61年2月竣工」と記してありました。昭和61年は1986年ですから、31年前に架けられたものとなります。国鉄が分割民営化されてJRが誕生したのは、翌1987年4月のことでした。その前年の竣工ですから、JRが誕生する直前まで油須原線の建設が続いていたことが判ります。

この赤村トロッコは、1乗車につき大人300円、小学生以下150円の乗車寄付金を払えば乗ることができます。所要は往復で20~25分です。
運転日は午前10時に運行が始まり、15時30分の受付のあとに発車する便が最終となります。ただし、運行本数については来訪者の人数や天候などで変わるようです。
また、8月は第1日曜日が予定されているほか、運行日は変更されることがありますので、詳しくは赤村トロッコ油須原線のホームページをご覧下さい。
使われている車両は、岐阜県の神岡鉱山で使われていたものを改造しています。つまり、本物のトロッコ車両です。機会があれば、ぜひ乗ってみてくださいね。


掲載日:2017年06月16日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。