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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


  • ひろやすの汽車旅コラム
"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

新たな時代を感じさせる、福島交通1000系 [No.H256]

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独自デザインをまとった福島交通飯坂線の1000系。このさき増備され、既存の7000系が置き換えられる予定だ。
今春、福島交通飯坂線に新形式となる1000系が走りはじめました。そこで、どんな感じかと乗りに行ったところ、従来の7000系にはない斬新さです。
新形式といっても、もと東急1000系ですから新車ではありません。東急東横線を走っていた車両で、日比谷線乗入れをしていた東横線が、副都心線乗入れに変更されたことで、譲渡対象になったのです。
同車は、上田電鉄(長野県)、伊賀鉄道(三重県)、一畑電車(島根県)などにも譲渡されるほど人気の車両です。それぞれの会社の1000系に乗っているだけに、正直なところさほどの期待感があったわけではありません。ところが、同車を見てすぐに「おや!」と思いました。
まず、外観デザインが落ち着いているのです。オリジナルの東急時代よりもある意味品が良くなったイメージです。これは、ネットや雑誌の写真を見ているだけでは判らなかったことでした。阪急マルーンに似たタークブラウンが前面の多くを覆っていますが、その下のピーチフラワー(ピンク)の帯が重苦しさを消すことで、トータルとしての上品さを出しています。
その中央には大きめのヘッドマークがついていますが、これが真円ではなく楕円形です。しかも目立とうとせず、全体のなかに溶け込むような色・大きさ・形なのです。それでいて、このヘッドマークの存在が全体のイメージを大きく支配していました。


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イラスト化した「いい電」の文字を中心に、いくつものメッセージが記されているヘッドマーク
ヘッドマークには、シャンパンゴールドでいろいろとかき込まれています。細部をみるには、左の写真をクリックして、大きくして見て下さい。
中心には、「GOOD TRAIN いい電」とあり、「いい電」はイラスト化しています。福島交通飯坂線はかつて飯坂電車という社名で、合併により福島電気鉄道となったうえで福島交通と社名変更した歴史があります。それだけに、沿線では今も飯坂電車時代の呼称「いい電」と呼ばれているそうです。
ヘッドマークの上部には「Fukushima Transportation Series1000 Since2017」と、今年から1000系として走りはじめたと記されています。
「いい電」の下には星が12個並んでいますが、これは飯坂線の駅の数だそうです。
その下には装飾が施されていますが、よく見ると左の中ほど上部に「雪うさぎ」が描かれていて、対になる右側にはハートマークが描かれています。
「雪うさぎ」は、福島市西部に連なる吾妻連峰にある吾妻小富士に、毎年春になると現れるうさぎ形の雪渓として、地元で知られているようです。また、1000系導入を前に廃車となった7000系2編成、それぞれのラストランで掲出された特製ヘッドマークにも描かれていました。
7000系の魂を受け継いだ「雪うさぎ」、そして福島の優しさとデザイナーとしての情熱を込めたハートマークが、さり気なくヘッドマークに描かれているわけです。


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前面の印象から一転して、側面にはファンタジーなイラストが見られる。右上にはヘッドマークに似た装飾板もある。
これらのデザインを担当したのは、描き鉄集団「ロコ」として東北地方の鉄道復興支援活動をしている、宮城県亘理町在住の小松大希という方だそうです。
30歳台前半という若い方だけに、よくこれだけ落ち着いた印象のデザインを手がけたものだと感心したのですが、車両側面をみて納得しました。右の写真にあるとおり、正面からのイメージとは一転して、ファンタジーな世界観が描かれているのです。
カッティングシートによる装飾のようですが、車内にも同様なイラストが飾られています。描かれているのは、福島市観光PRキャラクター「ももりん」です。前述の「雪うさぎ」がモチーフになっていて、名称公募の結果、福島特産の「モモ」と「リンゴ」から命名されたということです。
四季を表しているとのことで、ご覧の通りこれは春です。「ももりん」にはライバルの「ブラックももりん」がいるそうですが、季節毎にさりげなく「ブラックももりん」が隠れています。この写真ではやや小さいので、福島へ行って、ぜひ乗って見つけて下さい。
イラストの右側には、ヘッドマークそっくりの装飾板がありますが、ここにはもともと東急の社名板がありました。その跡を埋めるものとして作られたと思われますが、それをヘッドマークにも活かしたアイデアは秀逸といってよいでしょう。

ちなみに、デザイナーの小松さん編著による冊子「福島交通飯坂線1000系 Story Book ~たからものが、生まれるまで」が、福島交通の有人駅窓口で税込定価600円で販売されています。同冊子には1000系導入の経緯なども含めて、貴重な写真とともに掲載されています。特に、ヘッドマークに関する事柄は熱心に記してあります。

1000系は、これまでの主力車両7000系導入から25年を経ての新形式だそうです。
2019年春には、全車が1000系になる予定です。


掲載日:2017年10月06日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。