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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

肥薩線の旅3 真っ黒な特急で歴史ある木造駅舎を訪ねる [No.H104]

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真っ黒な塗装で登場して、鉄道業界にアッといわせた気動車特急「はやとの風」
先回まで、肥薩線を「SL人吉」号、「いさぶろう・しんぺい」号で辿ってきました。その締めは、特急「はやとの風」です。特急といえば明るく軽快感のある塗装の車両という印象がありますが、この特急「はやとの風」は真っ黒です。蒸気機関車と貨物列車の組合せでは真っ黒な編成がありましたし、電気機関車にも黒い機関車がいくつもありました。しかし、いまや黒い車両は例外中の例外。それだけに、登場時には誰もがアッと驚いたものです。
こんな奇抜な塗装を提案したのは、もちろんドーンデザイン研究所の水戸岡鋭冶氏です。「SL人吉」号、「いさぶろう・しんぺい」号に続いて、水戸岡氏デザインの車両乗り継ぎともいえる汽車旅となります。
さて、「はやとの風」は、普通列車用の気動車キハ40系を改造したキハ47 8092-キハ147 1045の2両編成です。しかし、さほど速く走ることはないため、特急として十分な設備となっています。その車内は、外観イメージとは異なり、木を多用した暖かい色の明るい印象となっています。右上の写真をみると、車両側面の中央に扉のようなところが見えますが、ここは展望席で、窓に向かって座ることができるフリースペースとなっています。



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戦時中に、機銃掃射を受けた痕がホーム柱に見られる、大隅横川駅。赤い丸ポストがよく似合う。
「はやとの風」は、吉松~鹿児島中央間68.5kmを結ぶ特急ですが、所要時間は約1時間30分です。表定速度にすると、時速45km強という遅さです。特に、肥薩線内となる吉松~隼人でみると、所要は1時間前後で、普通列車にはもっと速く走るものもあるほどです。これは、この列車が観光列車に位置づけられているためです。なにせ、肥薩線内の途中8駅中4駅に停車します。それも、大隅横川駅と嘉例川(かれいがわ)駅には、それぞれ5分も停車します。
左の写真は、その一方の大隅横川駅です。堂々たる木造駅舎ですよね。1903(明治36)年9月の吉松~隼人間開業に備えて同年1月に竣工したもので、国の登録有形文化財となっています。この駅舎を見学するために、「はやとの風」は5分停車をするわけです。駅舎は無人ながらよく整備がされていて、かつての切符売り場の窓口上には霧島市教育委員会による駅舎の説明もあります。ホームの柱には、太平洋戦争中の機銃掃射で弾が貫通した痕がそのまま残っていて、その旨の説明書きもあります。いまの、静かでのどかな無人駅からは想像しにくい、過去の現実を直視できる建物ともいえましょう。



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駅前に開業百周年の記念碑が建つ、嘉例川駅。小ぶりな駅舎と木製の長椅子に、懐かしさを感じる。
大隅横川駅から11.5km、所要13分で着く嘉例川駅も、肥薩線吉松~隼人間が開業した1903(明治36)年9月から続く駅舎です。大隅横川駅に比べると小ぶりで、駅前もさほど広くありませんが、古い駅舎としていち早く知られるようになったのは、この嘉例川駅でした。大隅横川駅と同じく、国の登録有形文化財となっています。
駅舎のすぐ前には2003(平成15)年1月15日に建立した「嘉例川駅開業百周年 記念碑」が建ち、さほど広くはない駅前広場の一角には、嘉例川駅前公園の入口があります。ふだんはとても静かな駅ですが、土休日に販売される駅弁「百年の旅物語 かれい川」と「花の待つ駅 かれい川」は人気で、鹿児島中央駅9:25発の「はやとの風2号」が到着する10:20頃には、駅弁目当ての人でごった返すということです。なお、「はやとの風」に乗車する場合には、2日前までにJR九州のみどりの窓口や駅旅行センター等で駅弁の予約ができます。

3回に分けて紹介してきた肥薩線ですが、それぞれの区間が独自の個性をもっていることをご理解いただけたことと思います。全線を一気に乗り通すのもよし、霧島に点在する温泉や人吉温泉に泊まって回るのもよしという、プランニングも楽しめるところです。ちなみに、注目の豪華列車「ななつ星in九州」の3泊4日ルートで宿泊するのは、嘉例川駅から約5kmの妙見温泉にある温泉宿です。




掲載日:2014年09月05日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。