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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

駅のようで駅でない、近鉄・八木西口駅 [No.H222]

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八木西口駅の駅名標。駅ナンバリングで独立番号をもち、次駅は大和八木となっているが…
今回は、何やら禅問答のようなタイトルとなってしまいました。
近鉄の大阪線と橿原(かしはら)線が直行する大和八木駅は、奈良県にあります。
大阪線は、大阪難波や上本町から鶴橋を経て、名古屋や伊勢志摩への特急が走る幹線です。一方の橿原線は、京都から大和西大寺を経て橿原神宮前に至る路線で、橿原神宮前で乗り継ぐと吉野へ行ける、これまた特急が走る路線です。
大和八木では立体交差で直行していて、大阪線が高架上を、そして橿原線が地上を走っています。そのため、京都から伊勢志摩へ向かう特急は、大和八木の手前で橿原線から分かれる連絡線に入り、築堤を上って高架上の大阪線ホームに至ります。

その大和八木駅から橿原線で南下すること約400メートルの地に、八木西口駅があります。両駅の最も近い側を測ると300メートルくらい。ややカーブしているものの、中間にある踏切に立つと両駅ともに近く見えるような位置関係です。
とはいえ、八木西口駅の駅名標をみると独立した駅ナンバリング「B40」をもち、お隣の大和八木駅の「B39」との関係も、特に変わったところがないように見えます。
ところが、近鉄のサイトをみると、この両駅について注釈があります。


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八木西口駅の出入口。こぢんまりとした駅ということは判るが、特に特色があるわけでもない。
「近鉄電車インターネット予約・発売サービス」にある「八木西口駅の運賃を検索する場合」には、次の様に記してあるのです。
***
八木西口駅を発または着とする運賃は大和八木駅を発または着とする運賃と同額です。
検索結果は大和八木駅として表示いたします。
***
平たくいうと、八木西口駅は大和八木駅として扱いますよということです。400メートルは短いとはいえ、路面電車であれば当たり前に隣の電停があるくらいの距離です。それでありながら同額とは、随分と親切ですよね。
だからといって、八木西口~大和八木間だけであれば無料で乗ることができるわけではありません。入場券では、そもそも電車に乗ることが禁止されています。そのため、この区間には初乗り運賃となる150円が設定されています。

このような例は近鉄以外にもあります。
例えば、昨年3月に開業したJR東日本の小田栄駅は、700m離れている川崎新町駅の距離で計算します。小田栄~川崎新町間の運賃も初乗りの140円に設定されていますが、ICカード乗車券の利用はできないことになっています。
とはいえ、珍しい例であることには違いありません。


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八木西口駅からすぐのところにある、今井町伝統的建造物群保存地区。環濠集落時代の景色がそのまま残っている。
いま、八木西口がある橿原市は、同駅の南約800メートルのところに駅の新設を計画しています。
新駅は、奈良県立医大病院の最寄り駅として設置する予定です。そうなると、大和八木駅から約400メートルで八木西口駅、さらに約800メートルで新駅となりますので、まるで路面電車の電停のような駅間が続くことになります。新駅停車により所要時間も増えますので、近鉄としては移転を希望しているようです。
一方、八木西口駅は、橿原市役所やJR西日本・桜井線の畝傍駅が至近で、国の重要伝統的建造物群に指定されている今井町にも極めて近いという便利な位置にあります。それだけに移転ではなく新駅としたいところですが、そうすると請願駅となり、設置費用の多くを橿原市が負担することになりかねません。
この点について、市議会で質疑がされているようですが、いまのところ方針が決まっているわけではないようです。今後、近鉄と新駅設置の負担割合を協議していくなかで、移転か併存かの方針が決まっていくものと思われます。

新駅設置には巨額が必要なだけに、橿原市としても近鉄としても慎重な対応を要していることと思います。それだけに、八木西口駅の今後が気になります。

掲載日:2017年01月27日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。